トウバナ(塔花)/シソ科/トウバナ属
在来種 アジアに広く分布 多年草 花期は5〜9月
「 正体が分からない」とブログに書いたら(ヒメオドリコソウに似た謎の雑草/2019.5.5)、親切な方から「それはトウバナでは」とコメントをいただいた。ありがたい。ようやく名前を知ることができた。
さて、「塔花」の「塔」とは何のことかというと「花穂が塔のように見えるから」らしい。今、唐突に「塔」とは何だ?という疑問が湧いた。五重の塔、テレビ塔など「塔」とつくものはいろいろある。高い建造物のことを指すのか? さっそく調べてみた。
「塔」は宗教のためだけの文字と言ってもいいようだ。「塔」の字の編は「土」であり、これは「神を祭るために柱状に固めた土」を表している。作りの上の「草冠」は「並び生えた草の象徴」で、その下の「合」の「上は容器の蓋、下は容器の象徴」なのだという。つまり「合」とは蓋付きの容器のことなのだ。
さて、「土、草、容器」ときたら古墳や塚である。「柱状に固めた土」はそのままの状態を維持するのは難しいので、やがて小山のような形になる。この小山状に高く盛り上がった形が鍵である。なにより目立つし、埋葬箇所が一目で分かる。また、目立つということは、多くの人々にそこに埋葬された死者を意識させる。やがて「盛り土、高い、目立つ」の「盛り土」は、「建造物」や「石柱」にとって代わられる。高くて目につけばいいので、盛り土でなくてもいいのだ。五重の塔は仏舎利(仏陀のお骨)を祀るものである。他に「塔」のつくものには供養塔、百万塔、宝珠塔、草木塔、卒塔婆などがある。
ではテレビ塔の「塔」はなんだろうか。これはタワー(Tower)という言葉が日本に入ってきた時に「塔」の字を当てたようである。偶然だろうが「とう」と「タワー」は音も似ている。はっきりとした宗教的な意味を持つ「塔」から「背の高い建造物」という意味だけを取り出して使うようになった。つまり、「塔」には「本来の塔」と「建造物の塔」の2つがあるわけだ。本来の「塔」の定義に「人が住んでいない」というのがあるそうだが、なるほど、テレビ塔、電波塔には人は住んではいない。そこは本来の塔と共通している部分だ。
中世の西洋絵画には「バベルの塔」を題材にしたものがある。それには窓のようなものが無数に描かれており、住居のようにも見える。だが「塔」は人の住むところではないのだ。それが証拠に「バベルの塔」は神の怒りに触れて崩壊し、墓標と化したではないか。これは神の力によって「塔」の本来の機能を取り戻した事例だとも言える。もう一つ。本来の「塔」には閉ざされたものという定義もあるという。そうなるとテレビ塔などは鉄骨がむき出しなので「塔」ではない。昔の日本の高い建造物である見張り台や火の見櫓も「塔」とは呼ばれない。
「塔」が閉ざされていて人が住んでいないのなら、背の高い箱でもいいのである。本来の機能は墓標なのだから。それなのに五重の塔には屋根がついている。これは地、水、火、風、空の世界を表したものだという。そのため、それぞれの区切りとしての役割を持つ屋根が五つ必要だったのだ。屋根がついたお陰で五重だと分かるのである。
五重の塔は別にして、日本の古い建造物で「塔」と呼べる高い建造物があったかなと考えた時、浅草にあった「凌雲閣(浅草十二階)」を思い出した。1890年(明治23年)完成で、名前に「塔」は入っていないが、当時は「眺望塔」とも呼ばれていたらしい。高い所からの眺望は、鳥の目線を持てない人間を今も引きつけてやまない。人は自分が住んでいる世界を確認したいのだ。それもずっと遠くまで。この「凌雲閣」も1923年(大正12年)の関東大震災で被害を受け、取り壊されてしまった。
話は変わるが、「凌雲閣」のことをウィキペディアで調べていたところ、ある記述を見つけた。外国人から見た関東大震災の被災者の様子である。以下に綴る。(ウィキペディアより)
「被災者たちを収容する巨大な野営地で暮らした数日間・・・、私は不平の声ひとつ耳にしなかった。唐突な動きや人を傷つける感情の爆発で周りの人を煩わせたり迷惑をかけたりしてはならないのだ。同じ小舟に乗り合わせたように人々は皆じっと静かにしているようだった。— ポール・クローデル、『孤独な帝国 日本の1920年代―ポール・クローデル外交書簡1921‐27』」
取り巻く環境や条件は変わっているだろうが、この日本人の姿は現在とほとんど変わらないように思う。震災時の混乱の中でも秩序ある状態を保つ日本人を世界が賞賛し、不思議に思い、最後には理解できないとまで言われるほどである。仕方がない。それが日本人なのである。昔からそうなのだ。
そうそう、肝心の「トウバナ」であるが、放射状に茎の周りに付いた花が、それを1単位として上下に積み重なっている様(五重の塔のように)を「塔」と表したのだろう。花の首飾りを隙間を空けて積み上げたというイメージかな。首飾り一つが五重の塔の屋根にあたる。茎の上部に花がたくさん付いている状態ではなく、連なっていることが重要なのである。
「トウバナ」の姿形を覚えてしまうと、なぜかあちこちで見かけるようになる。今までも見えていたのだが、きちんと認識できていなかったようだ。「トウバナ」が「ヒメオドリコソウ」に見えていたのだろう。
※「ばん」さん、「トウバナ」を教えていただき、ありがとうございます。お陰様で「塔」についてあらためて考えるきっかけになりました。お礼申し上げます。
※タイトルを変更しました(2019.5.16)。
写真:zassouneko