忍者ブログ

雑草探偵団

おっさんの雑草観察記です。花がどうとか生態がどうしたとかの科学的な興味はあまりありません。興味があるのは歴史や名前です。人との関わりや何でその名前になったのかに興味があります。その辺りを想像や仮定を交えながら書いています。個人の勝手な妄想のようなものですから、あまり信用してはいけません。また、このサイトはライブドアブログとミラーサイトになっています。何かあった時のバックアップです。

ホソムギと毒麦

ホソムギ(細麦)/イネ科/ドクムギ属
ヨーロッパ原産。30〜60cm 花期5〜6月

ほぼ世界中に分布していますがドクムギ属は日本には自生しておらず、明治の初め頃に牧草や緑化のために輸入されたそうです。別名はペレニアルライグラス。要注意外来生物に指定されています。それにしてもドクムギ属とは危険な名前です。

毒のある麦が小麦粉に混入している!
牧野富太郎博士の著書の中(植物一日一題)で、「小麦粉を配給した際に食中毒が発生したことがある」と戦後の新聞の記事が取り上げられており、博士はこれは「毒麦」が混入したせいだと指摘しておられます。「毒麦」とは穏やかではありません。小麦粉はうどんやパンなどに加工し、煮たり焼いたりしてから食べますが、熱を通したものでも発症するわけです。キノコの中に毒キノコが混ざっているようなものです。ドクムギ属の主なイネ科の名前を挙げていきますと、ホソムギ、ネズミムギ、ネズミホソムギ、ネズミドクムギ、ドクムギなどがあります。出たー、最後の2つが犯人だー。
犯人はお前だ!
という訳にはいかないようです。毒キノコは必ず毒がありますが、ドクムギに毒があるとは限らないのです。麦が毒を持つと見なされる原因は麦角菌(バッカクキン)と呼ばれる菌です。ようはカビがつくのです。感染すると内部に入り込み麦角アルカロイドを作ります。それが小麦粉を作る際に混入し、それを摂取した人が病気に罹るのです。つまり「ドクムギ(種名)=毒麦(毒がある)」ではなく「麦角菌に感染した麦=毒麦(ドクムギとは書かない)」なのです。「麦角菌」の名前通りに麦のほとんどが感染する病気なのです。牧野博士は食中毒の原因を断言してはおられませんが、「カビが原因」とする菌学者の意見をとりあげています。20世紀中頃でも原因があまり知れ渡っていなかったようです。

麦角病は麦を主食とするヨーロッパで猛威をふるい、近年まで多くの犠牲者が出しました。体内に取り込んだのが少量ならば問題はありませんが、パンは毎日食べますからね。食べ続けて中毒になってしまうと手足の痺れや錯乱、幻覚を引き起こすといわれています。進行すると手足の先などの末端部分が壊疽になってしまうこともあったようです。手が燃えるように熱く感じられることから、この病気(中毒)は「聖アントニウスの火」と呼ばれました。麦角菌をなくすことは出来ないので、現在でも麦などに感染します。そうなると健康面での影響が心配されますが、 農薬や製粉工場の処理方法の向上でコントロールは出来ているようです。麦角菌は50種類ほどあり、有名な「冬虫夏草」も麦角菌の仕業ですが、こちらは漢方薬となります。菌の種類が違うので、出来たアルカロイドは薬としての利用が可能です。また麦角菌は稲(米)には感染しませんので安心です。

それにつけても可哀想なのはドクムギです。毒を持っている訳でもないのに「毒」呼ばわりとは酷い話です。もっともこれは日本だけの呼び名ですし、ドクムギ本人にも聞こえていないはずです。日本にはドクムギは自生していないからです。
 

追記&訂正:読みづらかったので文章を加筆・訂正しました。(2015.11.12)
写真を追加しました。(2015.12.12)
イラスト:zassouneko
PR