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雑草探偵団

おっさんの雑草観察記です。花がどうとか生態がどうしたとかの科学的な興味はあまりありません。興味があるのは歴史や名前です。人との関わりや何でその名前になったのかに興味があります。その辺りを想像や仮定を交えながら書いています。個人の勝手な妄想のようなものですから、あまり信用してはいけません。また、このサイトはライブドアブログとミラーサイトになっています。何かあった時のバックアップです。

ヒメクグ/神話の世界へようこそ/その2/2018.8.18

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ヒメクグ(姫莎草)/カヤツリグサ科/カヤツリグサ属
在来種 多年草 花期は7〜10月 草丈は10〜25㎝

その1の続きです

はるか昔。縄文時代の中期には人々は定住して生活するようになったという。弥生時代(今から2,300年前)ならなおさらである。人々は自然界から食料を得たり、植物の栽培もした。また、それらを加工して生活用品を作った。蔓や茎を手で編み、箱や袋を作るのだ。その中で茎の部分を利用できる植物を「クク(莎草)」と呼んだ。「莎草」は特定の種を指しているのではなく、いくつかをまとめてそう呼んだのだろう。

定住生活をする者がいる一方、漂泊生活をする人々もいた。そうした人たちは植物で作った袋を持って移動したので、「クク」と呼ばれるようになった。彼らが漂泊する理由は、自ら選択したということとは別に、なんらかの差別が存在し、それが作用したと考えてもおかしくはない。宗教、習慣、気質など、なんらかの理由により地域(村)への加入を拒否されたのだ。それは職業の貴賎ということではない気がする。当時、見下される職業であっても仕事があれば定住しているだろう。このような漂泊民の存在自体が疑わしいと思われるかもしれないが、実際にジプシー(ロマ族)という例がある。彼らも差別を受け、ナチス政権下ではガス室に送られたりもしている。

一概に漂泊と言っても狩猟採集だけで生活するのは難しいだろう。どこかで社会との接点があり、そこで生活に必要な物を得ていたのではないか。当時なら物々交換ということになるだろうが、いったい何と交換していたのだろうか。それは村人からすれば簡単に手に入るようなものではなく、生活に必要だが入手しづらいもの。もしくは物でなければ特殊な技術や能力が必要な作業と引き換えだったのではないだろうか。私にはそれが想像できないが、物でないものとしてジプシーの星占いがある。
(次のブログ記事「その3/エピローグ」を書いていて1つ思い浮かんだ職業がある。そちらに書きましたのでよろしければお読みください。)

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今、「莎草(クク)」を辞書でひくと「①ハマスゲの漢名②カヤツリグサの漢名(漢名は中国語という意味)」とある。「莎草」は中国語なのだ。この言葉がいつ日本に伝来したのかは分からなかったが、10世紀には伝わっていたようだ。それより前の「古事記」や「日本書紀」にも植物はたくさん登場するが、「クク」「クグ」「グク」「莎草」「ヒメクグ」で検索してみても該当するものはない。ただ、「菅」が「カヤツリグサ」ではないかという記述はあった。つまり、「古事記」「日本書紀」以降に「莎草」という言葉が伝わったのだろう。

そろそろ古事記の「カカシのクエビコ」と「ヒキガエルのタニグク」に戻ろう。前述したようなことから「タニグク」はヒキガエルではなく、「莎草」と呼ばれる一群の植物であると言えるだろう。植物であれば「谷」だろうがどこだろうが全国どこにでも顔を出す。「クク」の頭に「タニ(谷)」がつけば「タニグク(ク→グ)」と濁音になる。「タニグク」はこれでいいが、「カカシのクエビコ」の「カカシ」はどこから来たのだろうか。

「クエビコ」は「ククノヒコ(彦)」だったのではないかという指摘がある。「タニグク(ク→グ)」となるように「ククノビコ(ヒ→ビ)」と変化し、それが「クエビコ」になったという。この「彦」はウィキペディアだと「古くは地域の男性首長や貴族を表す尊称」とある。部下である「タニグク」を束ねる「クク族」のリーダーとしての「ククノビコ(クエビコ)」なのである。同族ならば情報の流れはスムーズだろう。では「クエビコ」とはどんな植物なのかというと、「ハマスゲ」が有力な候補に上がる。「ハマスゲ」は「根茎」を食べることができる救荒植物(飢饉の時の非常食)の一つであり、薬としても利用できる。正倉院にも収蔵されているという。リーダーとしてはふさわしい。

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上の写真は「カヤツリグサ(蚊帳吊草)」だと思う。「カヤツリグサ」の仲間は80種ほどあり、見分けるのが難しいのだ。

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上の写真は「メリケンガヤツリ」。名前の通り南アメリカ原産の帰化種である。「メリケン」は「米利堅」かな。植物の名前を無理矢理漢字で書く必要はないのだが、一応書いてみた。

多くの「カヤツリグサ科」の植物は茎の頂点から横に向けて長い葉を数本のばす。それは人が腕を横に広げているようにも見える。古代の「カカシ」がどんな姿だったのか知らないが、現在と似たような形ならば、「ヒメクグ」は「カヤツリグサ」よりもはるかに「カカシ」と形が似ている。

さて、こうして「カカシ」になった「ククヒコ(クエビコ)」だが、「ヒ」が「ビ」になるのなら最初の「クク」も変化してもいいだろう。つまり「クグヒコ」や「クグビコ」のように連続する音の後ろの音に濁点が付くのである。「漣(さざなみ)」は「小々波」で昔は「ささなみ」、「吹雪く(ふぶく)」も「ふふく」だったらしい。なんだか都合のいい例ばかり集めているなあと我ながら思うが、気にしないで進めよう。

「カカシ」である「クグビコ(クグ彦)」によく似た植物がいる。「カカシ」のような丸い頭をして、両手を広げている。だが、とても小さく可愛らしい。小さな子供が一生懸命に大人のマネをしているようでもある。この子に名前を付けよう。小さく可愛らしいから「コ(子)」でなく「ヒメ」でいいな。そうなると「クグビコ(彦)」は男なので、「クグヒメ」か「ヒメクグ」か。よし「ヒメクグ」にしよう。

これで名前の由来に関して決着がついたように思えるが、これが正解だと断言はできない。神話の解釈などどうとでもなるからだ。「その1」で「答えが載っていた」と書いたが、もちろん正確な表現ではない。ただ、この解釈によって「ヒメクグ」と名付けられた経緯がすっきりとしたことは確かである。

写真:zassouneko

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