ヤノネボンテンカ(矢の根梵天花)/アオイ科/ヤノネボンテンカ属
南米原産の帰化種 常緑低木 渡来時期不詳 花期は7〜11月 別名はタカサゴフヨウ(高砂芙蓉)
初めてこの花を認識したのは去年(2016年頃)のことだ。クリーニング店のすぐ脇に生えていた。ちょうど同じ時期に「ギンセンカ(街中では珍しい雑草だろう)」を発見していたので、雰囲気が似ているこの花が気になって写真を撮ったのだ。そうしたら、お店の人が出てきてくれたので少し話をした。てっきり園芸種を植えたのだろうと思っていたのだが、勝手に生えてきたという。冒頭の写真の花もクリーニング店から50メートルほど離れた場所に生えている。クリーニング店から種が飛んできたのだろうか。
上の2枚の写真はクリーニング店の横に生えている「ヤノネボンテンカ」。花びらの裏側に血管のような筋がある。
「アオイ科」には「フヨウ(芙蓉)」や「ムクゲ(木槿)」といったよく似ている仲間が多く、花の形による見分けは難しいが葉の形や大きさがそれぞれ違うので区別ができる。
上の写真:「ムクゲ(木槿)」。葉は上の写真だと矢印(→)の形のようにハッキリ3つに分かれているが、品種によって違うようだ。しかし「ヤノネボンテンカ」の葉も3つに分かれているので、「アオイ科」に共通する特徴なのかもしれない。また「ムクゲ」の花の色を赤く塗ると「ハイビスカス(アオイ科)」そっくりになるが、そもそも「アオイ科」の学名は「hibisucus(ハイビスカス)」なのである。似ているのも当然だろう。
「ヤノネボンテンカ(矢の根梵天花)」の「矢の根」は、葉の形が「矢羽」に似ているからだ。「ヤバネ」と直接的な言い方をしないで、鋭く尖った先端部分の反対側(弦に引っかける部分)を「根」と表現している。
「梵天花」の「梵天」が分かりづらい。耳かきの毛の部分も「梵天」だし、「はえ縄漁」の網の目印になる「浮き」も「梵天」と言う。どうやらチアガールが持っているポンポンのような丸い球形のモノを指すようだ。その元となっているのは寺社の祭礼で使う道具にある。長い棒の先に紙(御幣)をたくさんつけたものが「梵天」である。何でそう呼ぶのかは分からないが、それが転じて形が丸かったり、丸くてポワポワしたものも「梵天」と呼ぶようなったと思われる。
もともと「梵天」は「帝釈天」と共に仏教を守護する「神(この言い方もおかしいが神仏混淆の結果である)」なのだが、ポンポンをイメージさせるものが皆目分からない。
この花は「梵天花」と名付けられたのだが、どこがどう「梵天」なのかさっぱりわからない。「球」のイメージもポワポワしたイメージも元の「梵天」につながるような特徴が見つけられない。「梵天」に他の意味があるのだろうか。別名の「高砂芙蓉」も意味が分からない。「高砂」とは婚礼の際に新郎新婦が座る一段高い席(テーブル)のことで、「能の演目」からきている。それが転じて(転じてばっかりだな。元ネタが分からなくなるのも無理はない)長寿や夫婦円満の象徴のような言葉となった。おめでたいイメージだと考えればいいのかな。サッパリ分からんなあ。矢羽のような葉の形が「ショウブ」や「チガヤ」のように「邪気を祓う武器」というイメージなのかな。
上の2枚の写真が「ギンセンカ」で同じアオイ科の草である。花の直径は2〜3㎝ほどで小さいが、色や形は「ヤノネボンテンカ」とよく似ている。花が閉じているのは、早朝しか咲いていないからである。陽が昇ると消えてしまう朝露になぞらえて、別名を「朝露草(チョウロソウ)」という。
「ヤノネボンテンカ」の渡来時期が不詳なのも謎である。日本に渡来した植物の記録はかなり残っているからだ。江戸時代はもとより奈良・平安の頃の記録もある。記録が無いのは何かの荷物にまぎれての渡来と考えられるが、この花は園芸種として扱われている。なんで輸入の記録が無いのだろう。いろいろと謎であるが、名前の雰囲気からするとかなり以前に渡来した植物だという気がする。外来種なのに本名も別名も和風テイスト満載なのである。
写真: zassouneko