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雑草探偵団

おっさんの雑草観察記です。花がどうとか生態がどうしたとかの科学的な興味はあまりありません。興味があるのは歴史や名前です。人との関わりや何でその名前になったのかに興味があります。その辺りを想像や仮定を交えながら書いています。個人の勝手な妄想のようなものですから、あまり信用してはいけません。また、このサイトはライブドアブログとミラーサイトになっています。何かあった時のバックアップです。

ヘビイチゴ/名前の由来が怪しいぞ

ヘビイチゴ(蛇苺)/バラ科/キジムシロ属
在来種 多年草 花期は4〜6月

5月も中旬になると春真っ盛りだ。春の「陽気」を全身で感じられる。寒い季節の「陰の気」はどこへやら、買い物を兼ねた散歩も捗るというものだ。と、いうことで去年見つけた「ヘビイチゴ」を見に行ったのだが、今年も普通に咲いていた。

跡見群芳譜(跡見学園女子大学のサイト)によると「深江輔仁『本草和名』(918年)」の中に「虵苺に『和名倍美以知古』」とある。この「虵苺」は中国から渡来した書物に載っていた名前で、「虵」は日本の「蛇(ヘビ)」と同じである。要は「中国の書物に『虵苺』とあるのは日本の『倍美以知古』と同じ植物のことである」と深江さんは言っているのだ。

この中国の「虵」という字が面白い。分解すると「虫也(むしなり)」となる。つまり「ヘビ」とは「虫」であると言っているのだ。昔の日本でも「ヘビ」を「長虫(ながむし)」と呼んでいたと落語で聞いたことがある。手足が無く、ニョロニョロと這って進む得体の知れない生物なので、とりあえず「虫」に分類したのだろう。気持ちは分からんでもない。日本の「長虫」は中国の書物を参考にしたのかもしれない。

「和名は倍美以知古」とあるが、後の「以知古」は当然「イチゴ」だろう。では、前の「倍美」は何かというと、これを「バミ」と読んで「ヘビ」のことを指していると思う。「バミ」は「ハミ」と同じで「食(は)む、または喰(は)み」である。「牛は草を喰む」のであり、競走馬などの調教された馬が口にくわえているのは「ハミ」で、大蛇は「ウワバミ(大喰み)」である。この「 倍美以知古」には「食べるイチゴ」という意味はないだろう。味はともかくとして食べられるものに、わざわざ「食べる」とつける必要がないではないか。食べられない有毒な植物なら「ドク(毒)」をつけるだろう。ならば「バミイチゴ」は「ヘビイチゴ」と解釈しても問題はない。偶然だと思うが、日本と中国で同じ名前で呼んでいたことになる。

上の写真は2016年の同じ場所。今年は撮影のタイミングが合わなかったのか、花が見当たらなかった。

ところで、なぜ「ヘビイチゴ」になったのか。あまりに不味いので「こんなものを食うのは蛇ぐらいだ」という説をよく見かけるが、唐突に「蛇」が登場する理由が不明である。食用に向かない植物の場合、普通は「カラス」などの鳥類か「イヌ」などの動物名があてられることが多い。なぜ「蛇」なのか。だいいち「蛇」は植物を食べないではないか。

少し手の込んだ理由づけに「ヘビがこの植物の陰に隠れ、実を食べに来る小動物を狙った」というのがある。いかにもありそうな感じがするが、それならば食べに来る動物の名前を付ければいいのではないか。だが、あえて「ヘビ」がついた理由を考えてみた。前述したが昔は「ヘビ」は「虫」だと思われていた。「虫」なら植物を食べるだろう。それに「ヘビイチゴ」の実は地上から10㎝ほどの高さにつく。「ヘビ」も簡単に食べられるのである。うーん、やっぱり説得力はないな。「ヘビ」である必然性に乏しい。

「ヘビ」とついた理由を新たに考えついたのでご披露する。下の写真のように「ヘビイチゴ」は茎が長く伸びるのである。葉が密集しているからパッと見には気付かないのだ。何かに巻きつくわけでもなく、途中から新しい根を出すこともなく、ただただ地を長く這うのである。この様子が「ヘビ」に例えられたのではないか。


もう一つ考えたのは、赤い実を「ヘビ」の目に見立てたのではないかということだ。古事記(だった思うが)ではヤマタノオロチの目を「赤いホオズキのようだ」と表現している。オロチもヘビも大きさは違うが似たようなもんである。いい説だと思うが、オロチ(象徴としての存在)はともかく、実在するヘビの目は赤くないんだなあ。だが、かすかな希望はある。岩国神社(山口県)の境内でのたくっている白蛇の目は赤いのである。しかも国の天然記念物なのだ。半世紀近く前に自宅にあった百科事典に木に巻きつく白蛇の写真があったのを覚えている。場所の記憶がないが、たぶん岩国神社だろう。それほど昔からいるのである。と、ここまで書いて気付いたが、そんな珍しい蛇ならば、その辺の野山で気軽にのたくってはいないだろう。「赤い実=ヘビの目」説は撤回する。

写真:zassouneko
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