ミチバタナデシコ(道端撫子)/ナデシコ科/コモチナデシコ属/帰化種
冒頭の写真はいずれも東区の国道19号代官町の交差点。ものすごい数である。これだけ生えているとお互いに窮屈ではないだろうか。
以前にも「イヌコモチナデシコはミチバタナデシコに改名した」という記事を書きましたが、経緯はこうです。最近(2015年)になって、それまで「イヌコモチナデシコ」と呼んでいた植物が実は「ミチバタナデシコ」だったと植物学的に確定したのです。つまり「イヌコモチナデシコ」(実は「ミチバタナデシコ」)が日本で発見された1960年代から今まで、50年以上名前を間違えていたのです。
実はこれ、ちょっと変な話なのです。気づきました?「間違えた名前を長年使っていた」ことが変なのではなく、別の理由で変なのです。
そもそもこの花は外来種ですから和名(日本名)はありませんでした。それで「イヌコモチナデシコ」という名前を付けたのです。この名前は日本国内でしか使用しませんから、命名に関しては特に制約はありません。まあ、通常は花の性質や同属との関連、日本独自の命名の傾向などを考えたものになります。この場合、それが「イヌコモチナデシコ」だったわけです。
それが「違っていた」というのは変じゃありませんか。だって、初めて和名を付けたのですから、間違えようがありません。変な名前が付いてしまっても受け入れるしかないんです。「イヌ」「コモチ」「ナデシコ」のどれかに間違いがあっても改名などは普通はしません。それに、原産地のヨーロッパから「イヌコモーチじゃなくミチバータだよ」と文句を言われたわけでもないのです。では、なぜ改名したのでしょうか?
冬越しする「ミチバタナデシコ」。上の写真は12月の中旬。一緒に写っているのは「オカタイトゴメ(マンネングサの仲間)」。下が4月の中旬。
実はこの問題は学名を取り違えたのが発端です。ヨーロッパに生息している「A=学名」という植物を、日本で発見されたものに誤って適用してしまったのです。その流れで「A=学名」の和名を「イヌコモチナデシコとする」となったわけです。ところが日本で発見されたものはヨーロッパでは「B=学名」と呼ばれる植物だったのです。
和名は学名に対応していますから訂正が必要になります。そこで新たな名前「ミチバタナデシコ」が「B=学名」に与えられました。
この結果、「イヌコモチナデシコ」は日本から消えてしまいました。ヨーロッパでは「A」という名前で存在していますが、日本には生息していないのです。そもそも日本にいるのなら、このような混乱は起きなかった筈です。並べて比べれば済む話ですからね。ただ、近い将来「A」が日本に侵入した時に名前を考える手間が省けます。「イヌコモチナデシコ」に決まっていますからね。
この植物は人間のドタバタぶりを笑っているようです。名前など人の都合に過ぎず、それがどんな名前であろうと、またそんなものは無くとも植物は確実に存在するのですから。つまり、名前を必要としているのは人なのです。
公園に生える「ミチバタナデシコ」。所々に見える小さな青い花は「ヒナギキョウ(雛桔梗)」。日本の在来種です。負けないで頑張ってほしい。自然界にグローバリズムは必要ありません。
写真:zassouneko