「クワガタムシ」のツノ(顎)は、どう見ても「鎌」である。
上から「オオイヌノフグリ」、「フラサバソウ」、「タチイヌノフグリ」。だんだんと花が小さくなる。
この界隈で見つかるオオバコ科クワガタソウ属の植物といえば「オオイヌノフグリ」「タチイヌノフグリ」「フラサバソウ」の3種である。これらが「オオバコ科」なのが少し意外な気がするが、そこは納得するしかない。それよりも「クワガタソウ属」の「クワガタ」が気になるのである。「鍬の形」って、あの形だよね?
属の名前にもなっている「クワガタソウ(鍬形草)」は近所では見かけないので、ネットで写真と解説を読む。それによると、萼(4つある)が、上を向いた種の下からV字形に重なり(種のこちら側に1対、他は向こう側なので見えるのは手前の1対のV字形のみ)、その様子が「兜」の前に付ける飾りの一種の「鍬形」に見えるから「クワガタソウ」になったようだ。写真では「兜」に見える半球形のような種子に萼がVの字を描くように貼り付いている。なるほど、武将の兜
と見えなくもない。思わず納得しかけたが、ちょっと待てよ。「鍬」って農機具の「鍬」だよな。それがV字形なのはおかしいではないか。
ちょっと整理しよう。昔からある農機具に「鍬(くわ)」と「鋤(すき)」がある。「鍬」は長い棒の先に直角に刃が取り付けてある。対して「鋤」の刃は水平で、これは今でいうシャベル(スコップとの違いは面倒なので取り上げない)に近いものだ。刃を地面に食い込ませて雑草の根を切ったりするのに使う。「鍬」は上方へ振りかぶって地面に叩きつけるが、「鋤」は刃の反対側に足を乗せて体重をかけて地面にめり込ませる。よし整理終わり。
この「鍬」であるが、基本は一枚の長方形の鉄の板である。「兜」の「鍬形」に似ても似つかない。「鎌」を2つ並べた方がはるかに似ている。「鍬」には3〜4本の大きな爪の付いたものもあるが、これでもないだろう。V字形にはなっていないのだ。
「兜」に「鍬形」が付くようになったのは平安時代からのようだ。ヘルメット(頭にのせる部分)の周囲を皮などでできた「吹返(ふきかえし)」で囲み、顔や首を守る。また、頭部は「立物(たちもの)」とよばれる「飾り」で防御する。これは装飾や目印の意味もあるが、「兜」に直接刀などが当たるのを防ぐクッションのような役割がある。例えばVの字の形をした金属の底辺の部分を「兜」と接着させれば、上部のVの部分に打撃を受けると全体がしなる。こうして衝撃を逃がすのだ。このタイプを「楔形」という。さて、この「立物」は「兜」の前ばかりではなく、頭頂部、後ろなどにも付けられたそうだ。その中で前に付けるものを「前立(まえだて)」といい、色々な「形」がある。三日月や鹿の角や家紋、また「愛」という文字を金属で形どったものもある(有名だよね)。これは我々がイメージする「兜」そのものである。その「形」のうち、ここで取り上げているV字形のものが「鍬形」なのである。と、ここまで調べてきたが「鍬」のV字の意味がまったく分からない。
さて、「鍬や鋤は鉄の板」と前述したが、これは近代の話である。ずっと以前は木を加工して作られていた。鉄は貴重な金属で気軽に手に入れられるものではなかったのだ。ようやく庶民に手の届くようになったのが、「兜」のところでふれた平安の頃である。とはいっても、まだ鉄は貴重である。では、どうしたか。農民たちは木製の「鍬」にU字形(コの字形)の鉄の刃をはめて使っていたという。「鍬」全部が金属でなくとも地面に当たる部分が鉄ならば、それで充分役に立つ。
ようやく「鍬形」の原型が出てきました。平安時代ではU字形の鉄の刃が「鍬」の形を代表していた訳です。UからVにいくのは直ぐですね。はー、解決した。ちなみに、このU字形の鉄の刃は新潟県の遺跡から出土しています。昔は鉄を作るのに砂鉄を利用していましたが、新潟といえば日本最長の河川、信濃川があります。そこの川砂から砂鉄をとっていたのではないでしょうか。また、新潟といえば燕三条の金属加工が有名です。なんだか、このブログにふさわしくないロマンある話になってきたな。綺麗にまとまりましたが、ただの勘違いかもしれませんのでご注意を。
さて、最後に。「クワガタ」と聞いて私が最初に思い浮かべたのは「クワガタムシ」でしたが、この「クワガタ」も「兜」の「鍬形」だったんですね。「カブトムシ(兜虫)」も「クワガタムシ(鍬形虫)」も武将のシンボルに由来があるわけです。はー、知らんかったわ。
(※)随時、文章を加筆・訂正しております。悪しからず。
写真:zassouneko