クズ(葛)/マメ科/クズ属
在来種 つる性の多年草 花期は7〜9月 漢名は野葛(やかつ)
万葉集の中で山上憶良が勝手に選定した「秋の七草」でも有名である。名前の由来は大和国(奈良)の国栖(くす、くず)が産地として有名で、それが京都で広まったからである。10世紀の書物にも「久須加豆良(くすかづら)」の文字が見える。漢字は違えど発音は「kuzu,kusu」である。その発音に「葛」という漢字を当てはめて統一したのである。
奈良県の「吉野葛」といえば今ではブランド品で、高級な和菓子作りには欠かせない。そんなブランド名はついていないが中身は同じ「葛」がここに生えている。ちょっと妙な感じである。この「葛粉」もそうだが、こういった自然のものは商品にするまでに手間がかかる。その分、価格も高くなるので庶民にはジャガイモのデンプンで代用した商品が普及する。致し方ないことである。「わらびもち」が「ワラビ」の根から作られなくなって久しい。
「つる性」の植物は数多くあり、また太古より利用されていたせいか「つる」の性格を持つものに「葛」の字をあてることが多い。その結果、前述した「久須加豆良」は「葛葛」になってしまうのだ。変なの。これは余談だが、今アメリカでは「葛」が猛威をふるっているという。100年近く前に観賞用として気軽に輸入したものが大繁殖しているのだ。「葛」はアメリカに渡ってハッチャケてしまったようだ。留学生にもそんなのがいる気がする。学生はともかく「葛」が大暴れしているのは「アレロパシー」が関係しているのかもしれない。
「クズ」は葛粉ばかりではなく繊維は衣服、蔓を編んで生活用品、葉は家畜の飼料にと大活躍である。また、風邪薬の葛根湯でもお馴染みだが「葛の根」自体はほとんどがデンプンなので特筆すべき成分があるわけではないようである。まあ、葛湯を飲めば体が暖まるし喉の痛みも柔らぐだろう。
さんざん紹介しておいてなんだが、この植物が本当に「クズ」かどうかはいまいち確信がない。この場所に夏に来ていれば花が見られたであろうから、それで「クズ」と断定できるだろうが、発見したのは10月になってからである。今なら種がついている筈だが、立派な柵があって中に入りづらいので確認ができない。多分「クズ」だと思う。
よく人物を「花がある(ない)」と評価することがある。最近なら「オーラがある(ない)」になるだろうか。これらは、つくづくいい加減な言葉だなあと思う。「花」も「オーラ」も人は持ってはいないので、もともと「ないもの」を批判されても困るのである。言いがかりに等しい。唐突にこんな話になったのは、葉ばかりの「葛」の写真を見ていたら、そういったことが頭に浮かんだからである。植物が高い評価を受けているのは花があるからだろう。もし、すべての植物から「花」がなくなってしまっても同じような評価を受けることができるのであろうか。
写真:zassouneko