カキドオシ(籬通/垣通し)/シソ科/カキドオシ属
在来種 多年草 花期は4〜5月 草丈は5〜25㎝ 別名はカントリソウ(疳取草) 漢名:活血丹
「ツボクサ」と間違えた植物である。コメントで指摘されて気がついた。間違った原因は花で判断できなかったのと(見つけたのは秋)、サイトに記載してあった葉の直径(2.5㎝)と大きさの開きが倍以上あったからである。コメントをいただいた方から「カキドオシ」の簡単な判別法も教えていただいた。それは葉の匂いを嗅いでみることである。ああ、そうか、全然頭が回らなかった。教えていただいて感謝しております。
さて、肝心の匂いはというと‥。いわゆる「シソ」の香りとは違うが、なんとなく共通点がありそうな匂いだ。「シソ」の香りが「北」を指しているとしたら、これは「北東」あたりを指している。雑草によくある「青くさい匂い」ではない。
「籬(まがき)」「垣」とは竹や柴などを使い、目を粗く編んだ垣根のことである(goo辞書)。「カキドオシ」は花期が終わると「茎(ツル)」が這うように長く伸び、時には垣根をくぐり抜けることもある。その様子がよほど印象深かったのだろうか、そのまま名前になっている。この「垣」はかなり昔からある言葉のようで、神道との関わりも深いようだ。神社の周囲を高さ1mほどの石柱が囲っているが、それを「玉垣(たまがき)」「瑞垣(みずがき)」という。聖なる場所を護る「結界」であろう。また「曲木(籬=まがき)神社」「妻籬神社」「八重垣神社」など「垣」がつく神社は多くある。
子供の頃によく目にしたのは竹を20㎝ほどの間隔で立て、それに長い竹を横に渡して黒いシュロ縄で縛った竹垣だ。とてもシンプルだが数年も経てば朽ちてしまうし(補修は簡単だが)、防犯の役に立つとは思えないが、「境界」を明示するだけでも効果はある。昔は今よりも「結界」が心理的な障壁として機能していたので問題はなかったのだ。竹の代わりに背の低い樹木を植え、剪定して形を整えたものを「生垣(いけがき)」という。ブラインドの効果もあるが、世話が必要なので少々手間がかかる。「生垣」はともかく「竹垣」などは観光地を除けば今では目にする機会は少ないだろう。
「シソ科」はハーブをはじめとして薬効を持つものが多いが、この「カキドオシ」も糖尿病、膀胱結石、尿路結石、黄疸、疳の虫に効果があるという。薬草としての「カキドオシ」は「連銭草(れんせんそう)」と呼ばれる。また、漢名は「活血丹」といい、いかにも薬草らしい名前である。
「カキドオシ」は垣根の下をくぐり抜けていくわけであるが、一つ気になっていることがある。それは「外から内に入ってきた」のか「内から外へ出ていく」のかの違いである。言葉を換えれば「侵入」と「脱走」である。どのみち垣根を越えているのだから、どっちでもいいじゃないかと思われるだろうが気になるのである。命名者が植物をどう見ているか、その「印象」や「思考」が名前になるのである。外に向かっているのか、それとも内なのか。命名者の視点はどちら側だろうか。
「垣」が周囲に対する「結界」「障壁」であるなら、「カキドオシ」は侵入者だといえる。なんせ参道は通らない、鳥居もくぐらない、それどころか「垣」の間から無断で入り込んでくるのである。無礼にもほどがあるが相手は植物であるから如何ともしがたい。「好きにしなはれ」というところだろうか。つまり「カキドオシ」は「内」に無断で入り込んでくるのだ。だが、これは「聖域」の中に「カキドオシ」は含まれていないという前提が必要だ。ここで取り上げている「カキドオシ」は名古屋城の外堀の中から、つまり「内」から「外」へ向かって垣根を越えている。外堀を囲む柵を「結界」とするなら、その中は「聖域」だろう。この「カキドオシ」は「聖域」の中にいるのだ。そこからの訪問者は歓迎すべき存在である。一方「結界」を「封印」だと考えるならば、そこからやって来るのは「禍々しきモノ」だ。さて現代人はどう対応するのであろうか。歓迎するのか追い返すのか。
「竹垣」などの根本は殺風景だ。むき出しの地面に直接竹が刺さっているのは不自然で見苦しい。そこに「カキドオシ」のような地を覆うような植物があれば落ち着いた雰囲気になる。グラウンドカバーである。
訂正&加筆(2016.10.31):文章を一部加筆・訂正しました。
写真:zassouneko