キランソウ(金襴草/金瘡小草)/シソ科/キランソウ属
在来種 多年草 花期は3〜5月 草丈は5〜10㎝ 漢名は金瘡小草 別名はジゴクノカマノフタ、イシャゴロシ、チチグサ
以前、「トキワハゼ」や「サギソウ」などと間違えて紹介してしまった草です。「kisaji」さんに誤りを指摘していただき、しかも名前まで教えていただいた。感謝しております。
「金襴」とは16世紀後半に中国(明)から堺に伝わった金箔や金糸を使った豪華な織物のことであるが、この草はそうは見えないので何でこの名前がついたのかは不明である。それに「キンラン」が「キラン」になったのも分かるような分からんような。「金襴緞子(キンランドンス)」という言葉は残っているからなあ。言葉のリズムの問題だろうか。だが理由は分からなくとも「金襴草」の名がついたのは16世紀後半以降のことだと推測できる。その時代に初めて渡来した織物の名前であるからだ。
一方、「金瘡小草」は漢名からきている。この「金瘡(きんそう)」は外傷のうちの特に刃物(金物である)で切られた傷のことをいう。それを治療する者を
「金瘡医」と呼び、南北朝時代(14世紀頃)に僧侶が刀傷、矢傷の治療にあたったのが始まりだという。今で言う外科医であろう。だが、いつの時代にでも「金瘡」はあり、それには医師または心得を持った個人が個別に対応していたと思われる。当時は医学の知識も充分ではなく、治療といっても矢を抜いたり傷口を布で覆うぐらいのことであろうから、それならば誰にでも出来る。
「金瘡医
」
という「職名」が生まれたのは、消毒や傷口を縫うといった専門的知識や技能を持った者が現れてきたからだろう。そうした専門家が生まれたのは
需要があったからだ。つまり戦が多かったのである。
2009年にNHKの「タイムスクープハンター」という番組でも取り上げられていたようだ。戦国時代の1572年の設定で、名称も「金瘡医」ではなく「医僧」となっていた。南北朝時代から200年経っても医者が治療にあたるのではなく、未だに「僧侶」がその役割を果たしている。というよりも剃髪して袈裟を身につけた僧侶の姿こそが重要だったのだろう。一目で非戦闘員と分かるし、またそうでないと襲撃されるので戦闘地域で治療など出来ない。まあ治療にあたる者には宗教的信念もあっただろうが。近年ならナイチンゲールや赤十字といったところか。
別名は「イシャゴロシ」「ジゴクノカマノフタ」など様々だ。「医者殺し(イシャゴロシ)」は、この草に素晴らしい効能があるので医者の出番がなくなり、廃業せざるを得なくなるという意味になる。「地獄の釜の蓋(ジゴクノカマノフタ)」とは、地獄で罪人を茹でるための釜の蓋のことだ。この薬草のおかげで死者も減るので、その結果、地獄に落ちる者も少なくなくなってしまい、地獄で罪人を茹でるはずの釜も開店休業の有り様である。放り込む罪人がいないのに湯を沸かしていてもしょうがないので、とうとう地獄の獄卒たちも火を止めて蓋をしてしまった。という意味であろう。なるほど効能はありそうである。
それはそうと「地獄行き」が「極楽行き」を差し置いて、まるで「前提」のように扱われているのは何故なんだろうか。怪我をして死んだ者は「地獄行き」と決められているのは、いささか理不尽ではないだろうか。この「ジゴクノカマノフタ」という名はそういう意味だろう。さて、農民や庶民にとって「戦(いくさ)」とは食料を奪われ田畑は荒らされ家が焼かれたりする、とにかく迷惑なものである。一方的に被害を受ける者にとって武士たちは悪人である。「金瘡」は戦いの中で多く発生するが、それがこの草を用いると治ってしまう。傷を負っているが悪人であるから「死ななかった=地獄の釜に蓋をされたか」と無念な気持ちが湧く。だが庶民は信心深いので「残念、死ななかったのか」と気持ちをストレートに外へ出すわけにはいかないので、悪人が生還した様を「地獄の釜に蓋をされてはしょうがない」と表現したのではないだろうか。表目上(道徳的)は生還したことを喜ばなければいけないが相手は悪人だ。「生き返って良かった」と言いながらも「地獄から帰ってきた(悪人だから地獄へ送られるのだ)」と心の中でつい思ってしまうのである。つまり「ジゴクノカマノフタ」は庶民側(被害者)からの視点で語られた名前なのだ。ちょっと無理がある見解かな。ま、書いている本人も自覚しているが。そういえば
親鸞の言葉に「善人なおもって往生を遂ぐ、いわんや悪人をや」というのがある。これによると地獄の釜はほとんど蓋をされている状態になる。でも、ちょっとは隙間があったのかな。
ここまでの話だと薬草としての期待は膨らむ一方である。では薬草のサイトを見てみよう。効能として「せき、たん、下痢」に続いて「はれもの、できもの、虫さされ」とある。最後に「外傷」とあるが、本文を読んでみても血を止めるとは書いてない。残念ながら「金瘡小草」は「チドメグサ」のような止血の効果は期待できないようだ。傷口の消毒や「できもの」には効果があるようだ。しかし病は気からという言葉もあるからなあ、血が止まり傷が治ると思い込めば何とかなったのだろう。プラセボ効果である。
追加:上にさらりと「傷口の消毒」と書いたが、よく考えてみると、それを発見したというのはすごいことである。感染症の予防になるので死亡率はかなり下がるだろう。「止血」にばかり目がいっていたが、そうではなかった。誤解してたよ「金瘡小草」を。
念のため中国の「百度百科」で「金瘡小草」を検索して
みた。そこでは「筋骨草属」となっており、なんだか勇ましい。薬効も載っており、ここでも「出血」は最後にあった。機械翻訳してみると微妙な日本語になったが、どうやら「キランソウ」は飲み薬のようである(※失礼!これは勘違いでした。通常は飲み薬ですが、傷口には塗り薬として使用するようです。/2016.10.31)。それよりも
問題なのは、日本のものとはずいぶん形が違うのだ。中国の
「金瘡小草(「瘡」は中国だと「疮」
。
文字化け
し
たらスマ
ン
)」も背は低いが、地面にへばりついているということもない。一番の違いは短い穂がのびて、そこに花がいくつか付いているのだ。「ヒメオドリコソウ」によく似ている。日本が間違えて名付けたような気がする。それとも冒頭の写真の植物はまだ成長の途中なのだろうか。」
追加&訂正(2016.10.26):文章を追記しました。
(2016.10.31):同じく追加訂正。
写真:zassouneko