ヒメジョオン(姫女菀)/キク科/ムカシヨモギ属
北アメリカ原産 1〜2年草 花期は5〜10月 草丈は30〜130㎝ 学名はErigeron annuus
「ヒメジョオン」と「ハルジオン」の区別は容易である。まずは下の写真を見比べていただきたい。
「ハルジオン(上の写真)」。特徴は花びら(舌状花/ぜつじょうか)が少し縮れていて全体的にまとまっていない。簡単に言うと「ポワポワ」している。葉は公園の池に浮かんでいる手漕ぎの貸しボートのような形をしており、その後部が茎に少しめり込むようについている。花の色は「白」「一部ピンク」「ピンク」があり、つぼみ(蕾)はうな垂れるように下を向く。それでも分かりづらかったら茎を折ればいい。茎が中空なら「ハルジオン」だ。
「ヒメジョオン(上の写真)」。「ハルジオン」に比べれば花びらの形はハッキリとしており、葉の形は写真の通りである。簡単に言うと、えー、なんだ、うーん「普通っぽい」。成長すると葉のふちがギザギザ(鋸歯/写真の右下に少し見える)になる。両者とも中央の黄色の部分も花(筒状花/とうじょうか)である。小さな花が並んでおり先端は5つに分かれている。つまり花びら(筒状花)の数は5枚なのである(合弁花)。
ここからは「ヒメジョオン(姫女菀)」の名前の話である。まず最初に、この「姫女菀」の「菀」は「新宿御苑」の「苑」ではない。この2つはほとんど同じような意味があるが別の字である。「苑」は「菀」の略字でもない。「菀」には「苑」にはない「茂る=鬱」という意味がある。「鬱蒼とした森」の「鬱」である。この「憂鬱」とは「憂い(うれい)」が「鬱=茂る=多い=心のほとんどが占められている」という意味であるから、根本的な原因は「憂い」であって「鬱」は量の問題である。「鬱=心のほとんどを占める」が「まばら」になれば症状は改善に向かうだろう。だが、それは「憂い」が無くなったことを意味するものではないのである。
さて、この「姫女菀」は中国だと「一年蓬」とよばれている。日本とは違う名前が付いているのである。別の国だから花の名前が違うのは当たり前であるが、漢字という共通項があるためにあらぬ混乱を招いているのである。
日本の「姫女菀」とは「小さな可愛らしい『女菀』」という意味だ。問題なのは、この「女菀」は日本に生えていない植物だということだ。「百度百科」を見ると(中国語で書いてあるから内容はよく分からないが)、「ヒメジョオン」によく似ている「女菀属」の花のようである。だが、見たことも聞いたこともないような花の名前を付けられてもイメージは湧かないし興味も持てない。そもそも「女菀」自体が、中国国内を除くとほとんど知られていない。学名は「Turczaninowia fastigiata」だが、これで検索しても樹木しか出てこないし、何故かロシアのサイトばかりが引っかかる。どこかで間違えていないか。
日本に帰化している「ヒメジョオン(Erigeron annuus)」「ヘラバヒメジョオン(Erigeron pseudo-annuus)」「ヤナギバヒメジョオン(Erigeron strigosus)/雑種」「ハルジオン(Erigeron philadelphicus)」などと比べても「女菀(Turczaninowia fastigiata)」の学名は異なっている。「キク科」だとは思うが「属」は違うんじゃないのかな。「女菀=中国」と「姫女菀=日本」の関係性はずいぶんと薄いようだ。
日本の在来種についている「漢字」は中国から持ってきたものであるが、それは両国に共通して生えている植物に限ってのことだ。この「ヒメジョオン」は両国にとっては外来種なので、その国での名前が無い。発見したからには名前が必要になる。ところが日本では「中国名(漢名)」を持ってくるという習慣のようなものがあったので、「ヒメジョオン」の場合も中国名を参考にしようとしたのだが中国でも名前が付いていない花である。それもあってか「ヒメジョオン」に似ている「女菀」を参考にして、そこに「姫」を付けたのだろう。だが「誰も知らない
花より可愛い花だ」とセールス(もともと
観賞用の花である)されてもポカーンである。だから「シオン(紫菀)」→「ヒメシオン(姫紫菀)」→「ハルジオン(春紫菀)」と続く命名の
連鎖から外れた「ヒメジョオン」は「キク科」の中で孤立している。外見が似ているのに名前だけが「キク科」の誰とも関連性がないからだ。だが、その責任は彼(彼女かな?)には無い。こんな状態になったのを弁明するのは命名者たる人である。
「百度百科」の「一年蓬」の項目を読んでみると(漢字だから少しは読める)、別名に「女菀」と書いてある。おいおい、「女菀」の本場が誤解を招くような表記をしてどうする。また中華版Wikipediaの「一年蓬」の項目に使われている写真は、どう見ても「ハルジオン」である。あちらの国でも「ヒメジョオン」と「ハルジオン」は見分けがつきにくいようである。
こうした日中双方の混乱の要因にいくつか思い当たる節があるのだが、それは別記事で。もう少し情報を収集したい。素人なので「勘と思い込み」の記事になりそうですが。
写真:zassouneko