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雑草探偵団

おっさんの雑草観察記です。花がどうとか生態がどうしたとかの科学的な興味はあまりありません。興味があるのは歴史や名前です。人との関わりや何でその名前になったのかに興味があります。その辺りを想像や仮定を交えながら書いています。個人の勝手な妄想のようなものですから、あまり信用してはいけません。また、このサイトはライブドアブログとミラーサイトになっています。何かあった時のバックアップです。

カラムシ/その2/古代の浪漫と起源主張

カラムシ/イラクサ科/カラムシ属 
在来種 多年草 花期は8〜9月 草丈は100〜200㎝ 漢語:苧麻(チョマ)英語:China grass, Ramie 

「カラムシ」の繊維を使った「からむし織」というのがある。こういった自然素材はいろいろと手間がかかるものが多い。その分価格も上がるわけであるから市場での競争力は低い。「伝統」を錦の御旗のように振りかざしても実情は虫の息である。そんな状況でも生産を続けている地域もある。福島と新潟の関係先のサイトを見たが、特に福島は「最後の砦」のような感じを受ける。行政などの後押しがないと厳しいものがあるようだ。

さて、あるサイトの中で気になる記載を見つけた。新潟のある業者のサイトに「カラムシ」という名は朝鮮半島にあった古代王朝「加羅」からきていると書いてある。続けて「このように縄文時代の晩期に中国大陸から朝鮮半島を経由して日本に伝播した」とある。「このように」と書くことで巧みに「加羅」を既成事実化し、併せて「半島経由」の信憑性の強化を企んでいる。つまり「名前が伝わったように植物も伝わった」と読めるのだ。この文章には その他にも細工がある。日本で見つかった最古の「カラムシ」の布は、縄文晩期ともいえる紀元前300年頃のものなのだ。「縄文晩期に伝播した」というのは、これをふまえてのことだろうが、この主張に資料や証拠があるのだろうか。最古の「カラムシの布」から逆算したようにも思える。それに「縄文晩期」とは言い得て妙である。今より古い時代の布が発見されても「晩期」の期間が曖昧なので間違っているとは言えないのだ。

ところが、こんな短い文章で内容がすでに破綻しているのだ。加羅王朝の成立は3〜6世紀といわれているので、縄文晩期(紀元前300年頃)とは最低でも500年は離れている。縄文晩期には「加羅」の影も形もないのだ。500年後に成立した王朝の名を付けるというのは変である。500年もの間、名無しの草だったわけじゃあるまい。思わず改名したくなるような加羅産の素晴らしい品種がやって来たのか。だが「カラムシ」の分布は南アジア、熱帯アジアが中心で日本、中国、台湾となっており、朝鮮半島は含まれていないようだ。まあ渡来説を善意で解釈すると、中国の「カラムシ」の種が途中下車しないで猛スピードで半島を通り抜けていったのだろう。 この文章を書いた者は明確な意図を持っていると見てよい。「カラムシ」の語源はこれという決定打はなく、様々な説がある。その中に「加羅説」もあるが、内容は上に書いたとおりである。わざわざこの説だけを取り上げる理由が分からない。ははーん、これがネットで話題になっている、さる国の起源主張ってやつか。

加羅王朝成立より100年以上前の書物「魏志倭人伝」には日本での「カラムシ栽培」の記録がある。これは来日した使者が実際に見聞したことを記述しているので信頼性は高い。それならば、わざわざ手間をかけて栽培している大事な植物に名前を付けないはずがないのだ。他の植物の場合も、中国(古代中国限定である)からその植物の漢字が入ってきた時に、その字を今まで使っていた名前で呼ぶのだ。「桜(櫻)」を「さくら」、「紫陽花」を「あじさい」と読むのもそうだ。ただし、これは強引である。「百合」の字のどこに「ゆ」と「り」があるというのだ。つまり発音は入ってこないのである。こうした漢字の問題があるから公的な文書や科学的な論文は植物の名前には漢字を用いず、カタカナで表記する。牧野富太郎氏も「高級ぶって漢字を使うな(意訳)」と憤慨されている。

まだ若い「カラムシ」

言っちゃあ悪いが思想的に偏向しているか、思慮の浅い団体だというのがうかがえる。「加羅」から伝わったのなら「加羅麻」「加羅苧麻」などという名で残っているはずである。そして舶来物としてブランド品扱いされただろう。もう一度書くが漢字が消えることはないのである。たまたま発音が似ていたから、この説に飛びついたのだろうか。これは伝統工芸を担う者としてはいささか頼りない気がする。今ある言葉と古来の言葉を安易に結び付けることは過ちのもとである。

同じページに「カラムシ」の葉を加工して食品にした商品が紹介されている。「ほうれん草」の数倍、数十倍の栄養があると喧伝しているがアルカロイドの問題は大丈夫なのだろうか。いつも検索している薬草のサイトに「カラムシ」の項目はない。検索を重ねると「伊吹山の薬草」として別ページに小さく記載があり、根や茎を利尿剤とするとあった。また、中国の植物に詳しい跡見学園女子大学の「跡見群芳譜」にも同じような記載がある。ただ、中国において食用にするとの記載はない。あの何でも食べる中国でも食用にしていないのだ。まあ中国人も食べない麦の葉を絞って、それを「まずい、もう一杯!」と言いながら飲んでいるのだから何とも言えないが。

「NAVERまとめ」に「カラムシ」の項目があるが、この会社の主張しか載っていない。誰がまとめたんだ。

普段ならこんな話題は取り上げないが、この会社のサイトに「古代」とか「伝統」とか「歴史」とか「自然」とか「直江兼続」とかを前面に押し出しているので苦言を呈してみた。会社名を出さないのは面倒を避けるためだ。まあ、検索すればすぐに見つかるだろうが。

※「カラムシ」に関しては和泉晃一氏 のHPの「草木名の話」を参考にしました。お礼申し上げます。もっとも半分も理解できておりませんし、誤った解釈をしているのではないかと心配です。正確な情報は「草木名の話」をご参照ください。


写真:zassouneko
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