ヒメクグ(姫莎草)/カヤツリグサ科/カヤツリグサ属
在来種 多年草 花期は7〜10月 草丈は10〜25㎝
はじめに。とりあえず候補は3つある。「ヒメクグ」「アイダクグ」「アオガヤツリ」である。ここでは「ヒメクグ」とした。合っているかどうかは分からない。
和名にある「莎草(サソウ/シャソウ)」を「クグ」と読むのは不自然だ。日本に古来からあった「くぐ」という言葉に漢名の「莎草」をあてたのだろう。「ヒメクグ」の説明の中に「クグはカヤツリグサの仲間の古名」とあった。「カヤツリグサの仲間」を昔は「クグ」と呼んでいたようだが、「仲間」というのが気にかかる。「カヤツリグサ全般」なのか、「特定の植物」を指すのか、「カヤツリグサの近縁種」のことなのか分からない。「姫(ヒメ)」とついているのは「小さくて可愛らしい莎草」ということだ。写真の植物の草丈は大きいものでも15㎝ほどである。
ついでに「weblio辞書」で「莎草」を引いてみた。どうやら読み方によって意味が変わるらしい。
❶まず、「くぐ」と読むと
「①イヌクグの別名②ハマスゲの古名③シオクグの別名」
①③の「別名」は関係ない。名前を略しているだけだ。②が上に挙げた「カヤツリグサの仲間の古名」だろう。「ハマスゲ」は「スゲ(菅)」とあるが「カヤツリグサ属」である。「ハマスゲ」という特定の種の古名が「くぐ」だということだ。
❷これを「かやつりぐさ」と読むと
「①カヤツリグサ科カヤツリグサ属の草本の総称(略)②カヤツリグサ科の一年草(略)」
当たり前といえば当たり前だが、❶とは違い、「カヤツリグサ」全般の古名に「莎草」という字をあてている。発音は違うが。
❸次に「ささめ」と読むと(読めるか!)
「茅(ちがや)に似たしなやかな草(略)」
ではということで「ささめ」を検索してみるが正体は不明である。「ささめ」とは何なんだ。
❹また「しゃそう」と読むと(これは「さそう」と同じだろう)
「①ハマスゲの漢名②カヤツリグサの漢名(漢名は中国語という意味)」
つまり当時の中国でも両者を同じ名前で呼んでいたことになる。それがそのまま日本に伝わったのだろう。❶❷がそれを証明している。ここまでをまとめると「莎草」という文字の意味は分かった。次は「くぐ」である。どうやら②の「ハマスゲ」に「くぐ」のヒントがありそうだ。
跡見学園女子大学の「跡見群芳譜」の「ハマスゲ」の項を参考にすると、深江輔仁「本草和名(918年)」には「莎草、一名三稜草(カヤツリグサの多くは茎の断面が三角だから)に、和名美久利、一名佐久」とあり、また、源順「倭名類聚抄(934年)」に、「莎草は『楊氏漢語抄云、具々』、三稜草は和名美久里」とある。この「具々」がいかにも怪しいが、これが「ぐぐ」なのか「くぐ」なのか、古典の素養がないのでさっぱりわからない。この「ハマスゲ」は「根茎」を食べることができる救荒植物の一つで、その部分を薬としても利用できる。地味な「カヤツリグサ科」にあって、「ハマスゲ」は抜きん出て有用で存在感がある。正倉院にも収蔵されているという。つまり「ハマスゲ」は「カヤツリグサ科」を代表するような位置にいるのである。そうなると似たような植物の名前が「〜クグ」となるのも仕方がないだろう。だが、この「クグ」はいつの間にか忘れ去られてしまい、「カヤツリグサ」という名前が優勢になっていくのである。
今「くぐ」の意味を調べると、植物の他に「供具」が出てくるが、おそらくこれとは関連はないだろう。昔の人が何を考えて、またどんな意味をもたせて「くぐ」と呼んだのかは分からない。だが「ヒメクグ」は古来の名前を受け継いでいる植物なのだ。
加筆&訂正(2016.8.29):文章を一部訂正、加筆しました。
写真:zassouneko