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雑草探偵団

おっさんの雑草観察記です。花がどうとか生態がどうしたとかの科学的な興味はあまりありません。興味があるのは歴史や名前です。人との関わりや何でその名前になったのかに興味があります。その辺りを想像や仮定を交えながら書いています。個人の勝手な妄想のようなものですから、あまり信用してはいけません。また、このサイトはライブドアブログとミラーサイトになっています。何かあった時のバックアップです。

ネジバナ/街中に自生する日本の「蘭」

ネジバナ(捻花)/ラン科/ネジバナ属
在来種 多年草 花期は5〜8月 草丈は10〜40cm 別名:モジズリ(捻摺)

ご覧のように花が螺旋を描くように茎から生えている。まさに「ねじれている」といってもいい。「ネジ」といっても、工具のドライバーで回す「螺子(ネジ)」ではなく、「花が捻(ねじ)れたように、ついている花」という意味の「ネジ」である。このインパクトのある外見は忘れがたい。写真でしか見たことなかったが、まさか東区内で目にするとは思わなかったので、少し感動した。名前に「〜ラン」とつく植物は多いが、その多くは単に花の形が似ているだけであって、決して「ラン科」に属しているわけではない。「虎の威を借る狐」ならぬ「ランの名声にあやかる花」だ。ところが、「ネジバナ」は正真正銘の「ラン科」である。「ラン」といえば、深山幽谷か湿度の高いジャングルに生えているものだと思っていたが、この花はずいぶんと身近な場所で咲いている。「ラン」にも色々あるんだな。


別名の「モジズリ(捻摺)」とは、染物の技法である「忍摺り(しのぶすり)/信夫摺り(しのぶすり)」の古語だという。「忍摺り」とは、「シノブ(夏になると釣り忍などで使用されるシダ植物)の茎や葉を布にすりつけて表したねじれたような模様のこと」で「昔、陸奥(むつ)の国信夫(しのぶ)郡(今の福島県福島市)で産した(発案されたの意味か?)」とある。この模様を口で説明するのは難しいので「しのぶすり」で画像を検索していただきたい。ついでに「もぢずり」でも検索をかけていただくと、平安時代まで遡る一大歴史ロマンが展開するのだが、私の手には負えないし、本稿にも関係ないので無視する。残念ながら染物の画像を見ても、私には「ネジバナ」との関連がさっぱり理解できないが、昔の人は関連づけることができたのだ。その理由は分からないが、ただ、今に技法(技術)が伝わっていても、デザインが昔と異なる場合もあるだろうから、詳細は不明である。

小倉百人一首に河原左大臣(源融/みなもとのとおる)の和歌がある。
「みちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに みだれそめにし われならなくに」
なお、福島県には「文知摺(もじずり)観音」というお寺があるそうだ。
歴史や古典が関係してくると、その重みに思わず説得されそうになるが、いろいろと怪しい話である。シダ植物の「シノブ」で色をつけたというのは伝説であって、事実ではないような気がする。地名の「信夫」のただの語呂合わせのような気がする。シダ植物の汁が染物にむいているとは思えないからだ。白い布地(おそらく麻だろう)に緑の汁の塗りたくったものが、人々に受け入れられるとは到底思えない。だが可能性はわずかに残る。この緑の汁が酸化を繰り返す内に、美しい色合いに変化をしないとも限らないからだ。「藍染」でも酸化は重要なプロセスの一部である。まあ、シダ植物にそんな可能性は無いように思われるが。


「ネジバナ」には左巻きと右巻きがあるというが、写真の花は左巻きである。撮影した花の地表近くから生えている葉の先が、全て同じ高さで横に断ち切られているので、おそらく春先に草刈りでもしたのだろう。草刈りの時期がもう少し遅ければ、花ごと刈られてしまっただろうから、ここで出会うことは無かったかもしれない。ここで確認できたのは4本だけで、草丈は20㎝にも満たない。

写真:zassouneko
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