ナギナタガヤ(薙刀茅/長刀茅)/イネ科/ナギナタガヤ属
地中海沿岸(南ヨーロッパ、北アフリカ)原産の帰化種 1年草 花期は5〜6月 別名:ねずみのしっぽ(命名/牧野富太郎)
名前の由来は穂の形がナギナタに似ていることから。上の写真を見ていただければお判り頂けると思うが、小穂が片側だけ伸びて、ゆるやかなカーブを描いており、それが「薙刀」の刃の形に見えるのだ。ただ、この形も初期に顕著な特徴であるらしく、成長すると普通のイネ科のように小穂は両側に付く。この草は明治時代に牧草として輸入されたものだが、その後に帰化したという。乾燥している場所が好みらしく(原産地も乾燥している)、東区の国道19号沿いのあちこちの植え込みで盛んに繁殖しているのを見ることができる。
それにしても全てが細い植物だ。しかも穂がやたらと多く出て、葉がほとんど目立たない。こんな細い葉で行う光合成だけで、成長に必要なエネルギーが足りるのであろうかと心配になるが、何とかなっているから異国で帰化できているのである。また、この草の長所として、密集して生えることが挙げられる。これだけ密集して生えていると他の植物の付け入る隙が無いのである。この性質を利用して、果樹園などでは下草として利用しているそうだ。普通に考えると、果樹だから多少の雑草など問題ないだろうし、雑草など刈り取ってしまえばいいと思うのだが、そこには大きな問題がある。まず雑草に土壌の栄養分が奪われる。また雑草はさまざまな菌を持っているので果樹が病気に感染する場合もある。それに雑草が生い茂っていると果樹の収穫の邪魔になる。こうした雑草の除去には除草剤の使用か刈り取りということになるが、前者の場合だと、すべての雑草に効くような農薬は果樹にも影響を与えるし、健康への不安も増す。そして後者の場合は刈り取りの手間がかかるのだ。「ナギナタガヤ」も同じ雑草ではないかと思われるだろうが、実はこの草は特筆すべき能力を持っているのだ。
密集して生える。
春先の畑に「シロツメクサ」などの「マメ科」の植物を植えるのは、「シロツメクサ」の根についた根粒菌が空気中の窒素を取り込むので、成長したらそのまま畑にすき込んでしまえば肥料となるからだ。そして地表一面を覆うので他の雑草が成長しづらい。それと同じような働きを「ナギナタガヤ」もするのである。
「ナギナタガヤ」が持っているのは「VA菌根菌」というもので、土中のリンを効率よく集めて植物に提供する働きをするという。また「ナギナタガヤ」も密集して生えるので他の雑草が生えにくい。後はすき込んでしまえば肥料となるのだが、実は「すき込む」手間がかからないのだ。下の写真のように成長すると自ら大地に倒れこむようになるので、果樹の収穫の邪魔にならないし、やがては分解され肥料となる。農薬を使う必要がない。まさに良いことづくめである。種苗店では改良した「ナギナタガヤ」の種を販売しているという。
隙間なく生え、やがて倒れこむ。
植物と菌の共生は珍しいものではなく、一説によると植物の8〜9割は何らかの菌を持っているという。まあ動物は100%菌と共生しているのだが。植物の一例としては「松茸」は松の木と共生している菌であるといえる。問題となるのは、他の植物に与える影響であろう。ある植物が持っている菌が、他の植物にも有用であるとは限らない。
別名の「ねずみのしっぽ」は植物学者の牧野富太郎氏が名付け親だが、残念ながら普及はしていないようである。下の写真は「ネズミノオ(鼠の尾)」(イネ科/ネズミノオ属)と呼ばれる植物である。こちらの方が似ているからだろうな。
写真:zassouneko