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雑草探偵団

おっさんの雑草観察記です。花がどうとか生態がどうしたとかの科学的な興味はあまりありません。興味があるのは歴史や名前です。人との関わりや何でその名前になったのかに興味があります。その辺りを想像や仮定を交えながら書いています。個人の勝手な妄想のようなものですから、あまり信用してはいけません。また、このサイトはライブドアブログとミラーサイトになっています。何かあった時のバックアップです。

アヤメとショウブ/誤解は続くよ、いつまでも

無料画像サイトで「菖蒲」で検索して出てきた画像の一つ。他の写真も同じようなものである。さて何の花でしょうかね。水辺に咲いているように見えるので「カキツバタ」のような気がしますが。

子供の日を前に、私の幼少時(半世紀近く前)の思い出を語ってみたい。その頃、家にあった五月人形はガラスケースに入った髭づらの鍾馗様で、人形の脇には紫の花をつけた植物が何本も立っていた。それは「菖蒲湯」に使う植物と葉がそっくりである。これでは「菖蒲(ショウブ)」とは紫色の花をした植物だと思い込んでも無理はないだろう。私はかなり長い間、「ショウブ」は花が紫色で、別名が「アヤメ」だと思い込んでいた。

①ショウブ(菖蒲)/ショウブ科/ショウブ属(クロンキスト体系では「サトイモ科」)
②ノハナショウブ(野花菖蒲)/アヤメ科/アヤメ属(この花の園芸種が「ハナショウブ(花菖蒲)」)
これが混乱の元である。ここに③「アヤメ(文目、綾目)」と④「カキツバタ(杜若、燕子花)」が絡んでくるので、事態はますます複雑な様相を呈してくる。

①が端午の節句に使われるのは理由がある。葉の形が「剣」を連想させ、また良い香りが邪気を払い、魔除けになると考えられたのだ。これは中国から伝わった風習のようである。実際に「ショウブ」は生薬として利用されているし、「菖蒲湯」に使う「ショウブ」を漢方薬を扱っているお店で売っている場合もあるそうだ。「アヤメ」だとこうはいかない。効果が無いからである。つまり端午の節句に「アヤメ」は関係がないのである。まあ伝統的なことを無視して、「葉が剣に似ている」という理由で飾ってもバチは当たらないが。

公園で見つけた「イチハツ(一八)(アヤメ科/アヤメ属)」。親切にも名札がついていて「イチハツ」と書いてあった。分かりやすくてありがたい。

②の名前がおかしいことにお気づきだろうか。①の「ショウブ」だって花が咲くのに、わざわざ「野花」や「花」を付けた名前にしている。これは①「ショウブ」の花が変わった形をしていることに原因がある。「アヤメ」のような花ではなく、間延びした「ツクシ」のような形をしているため、地味な「菖蒲」に対して「綺麗な花の菖蒲」としたのだろう。両者とも葉っぱは似ているのである。「ショウブ」の花の姿は口では説明しづらいので、ぜひ実際の写真を見ていただきたいのだが、無料の画像サイトで「ショウブ」と検索して出てくる千点以上の写真がすべて「アヤメ」だったこともあるので、その点は注意していただきたい。
上の写真:「ツツジ」と咲いているのは、これも「イチハツ(一八)」。すぐ横の家の年配の女性に教えていただいた。

混乱している原因は②にばかりあるのではない。ずっと昔、平安や室町の頃には「菖蒲」を「あやめ」と呼んでいたことがあったという。何度も言うが、葉は似ているのである。今でも「五月人形」を画像検索すると「アヤメ」のような紫色の花が小物に使われていたりする。こうしたことが繰り返されてきたから、「菖蒲」が「ショウブ」や「アヤメ」になってしまうのだ。だが、「アヤメ」は英語で「Iris(アイリス)」だが、「ショウブ」は「calamus」である。別の花なのである。

これらの花の生息場所を紹介する。「カキツバタ」は水辺で、対して「アヤメ」は陸上である。そして「ハナショウブ」の咲く場所はその中間あたりになる。国宝である尾形光琳の「燕子花図屏風」は金箔の上に紫色の「カキツバタ」を配置した構図である。また同じような構図の「八橋図屏風」という作品も残している。前述の「燕子花図屏風」に橋をつけ加えたような構図である。この金箔は水を表しているのは明白だ。「カキツバタ」は水辺に咲く花であるからだ。

結論:端午の節句のアイテムに紫色の花(アヤメ)を用いるのは伝統を踏襲していない。またまた何度でも言うが「葉が似ている」だけなのである。それとも「アヤメ」に「ショウブ」の役割を担わせるという信仰がいつの間にか出来上がっていたのだろうか。「イワシの頭も信心から」という言葉があるように、信仰の形は何でもありなのだが、それでもなんらかの理由はある。「アヤメ」を使う理由とはいったい何だろうか。

写真:zassouneko
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