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雑草探偵団

おっさんの雑草観察記です。花がどうとか生態がどうしたとかの科学的な興味はあまりありません。興味があるのは歴史や名前です。人との関わりや何でその名前になったのかに興味があります。その辺りを想像や仮定を交えながら書いています。個人の勝手な妄想のようなものですから、あまり信用してはいけません。また、このサイトはライブドアブログとミラーサイトになっています。何かあった時のバックアップです。

ヒメムカシヨモギ/その2/憮然とする巨人

ヒメムカシヨモギ(姫昔蓬)/キク科/ムカシヨモギ属(イズハハコ属)
北アメリカ原産の帰化種 2年草 花期は8〜10月 体高は1〜2m

また気の毒な名前をつけられた雑草の登場です。「ムカシヨモギ」と付けられていると「ヨモギ」の原生種であるかのような気がしますが、両者に直接の関係はありません。「ムカシヨモギ」という名前は妥協の産物だったのです。

はるか昔に、ある書物が中国から日本にもたらされました。それは百科事典と呼んでもいいものですが、今の事典と違って挿絵などは無く、文字だけの本でした。その中には植物の項目もあり「名前」や「特徴」はもちろん、「薬草になるか」とか「食べられるか」という解説も載っていました。と言うよりは、昔はそちらの方が重要です。博物学的な分類などは二の次です。とにかく食料や医薬品を確保しなければいけませんから。その中に「蓬」として説明されている草のことを、これは「与毛木」と日本で呼ばれている草と同じものだと当時の学者たちは判断しました。図は載っていませんから文章から推察したのです。それ以来「蓬」は「ヨモギ (与毛木)」となりました。ところが、これが間違っていました。日本で「蓬」と名付けられた植物は、中国では「 魁蒿(カイコウ)」と書くのです。そして中国で「ヒメムカシヨモギ」は「小飛蓬」と書き、「ムカシヨモギ属」は「飛蓬属」です。

ここで注意をしておくことがあります。「ヒメムカシヨモギ」は北アメリカ原産で、日本にやってきたのは明治の少し前です。それにアメリカ大陸はまだ発見されていないので、当時の中国に「ヒメムカシヨモギ」が生えているわけはありません。つまり前述した中国の書物にあった「蓬」は「ヒメムカシヨモギ」とは別の植物です。「ヒメムカシヨモギ」自体が存在していないわけですから。そうなると「小飛蓬(ヒメムカシヨモギ)」や「飛蓬属」は近年になって出来た言葉であるとわかります。
後年になって学者たちは「蓬」は「ヨモギ」ではないと気がつきましたが、もう世間には「蓬」で知れ渡っています。そこで「昔蓬」という名を考えだしました。つまり「昔はこちらが蓬と呼ばれており、名前の元祖である」と後付けの解説を加えたのです。人々の支持を得た「蓬」の地位はいささかも揺らぎません。これでは「ヒメムカシヨモギ」が気の毒なような気がします。「ヒメムカシヨモギ」は英語では「canadian horseweed」となり、直訳すれば「カナダの馬草」です。家畜の飼料になるんでしょうか? そこで「horseweed」を翻訳すると、また「ヒメムカシヨモギ」と出てきます。まあ当たり前といえば当たり前です。翻訳しているのですからね。こうして「ヒメムカシヨモギ」の名は広まっていきます。
名前に「ヒメ(姫)」と入っているのは、元の植物に比べて「小さく可愛いらしい」という意味がありますが、元になるはずの「ムカシヨモギ」という植物は見当たりません。「ヒメ」がこれだとしたら、「ヒメ」じゃない植物はどれだけ大きいのかと期待していましたが残念です。写真の「ヒメムカシヨモギ」は2m以上もあり、堂々としています。これが樹木だとしたら「巨木」と呼ばれていたでしょう。

写真:zassouneko 撮影:2015.10.02〜3
追記&訂正:2015.11.20
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