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雑草探偵団

おっさんの雑草観察記です。花がどうとか生態がどうしたとかの科学的な興味はあまりありません。興味があるのは歴史や名前です。人との関わりや何でその名前になったのかに興味があります。その辺りを想像や仮定を交えながら書いています。個人の勝手な妄想のようなものですから、あまり信用してはいけません。また、このサイトはライブドアブログとミラーサイトになっています。何かあった時のバックアップです。

シソ/赤紫蘇、青紫蘇、どちらが先に生まれたか

シソ(紫蘇)/シソ科/シソ属
中国原産の1年草 花期は8〜10月 背の高さは50cm〜1m
上の写真の中央あたりに薄紫の花が見える。 葉の形がはっきりとしているので近所の人が今年苗を植えたのかもしれない。

●「シソ科」の仲間は多く「ハッカ属」もその一つである。私の住む周辺では「シソ」や「スペアミント(オランダハッカ/2015.8.10投稿)」が多くの場所で雑草化している。ハーブ類の中には強い繁殖力を持つものがいる。
●そこら中で繁殖しているからといって、ハーブ類がタダで手に入ると考えてはいけない。今、繁殖しているのは、種苗店で売っているような見栄えや香りの良い高い品質のものではなく、それらを失ったしまった次世代の種である。次世代はそうなるように交配させた苗や種しか現在は売られていないからである。それらを「F1種」と呼ぶ。

「シソ」と三国志
「紫蘇」の名前の由来がよくわからない。古い記述では後漢の頃に華佗(かだ)という名医が、死にそうで顔色が紫色になった人を、この草を使って治したからという。紫色の顔色から回復して蘇ったから「紫蘇」だという。そうであるなら草自体の色とは関係がないことになる。紫の葉でなくともよいわけだ。ついでだが、華佗は三国志でお馴染みの曹操の頭痛を治療したことでも知られている。
訂正&加筆(2016.4.10):ウィキペディアで「シソ」の項で華佗」に関するエピソードを見つけたが、上記のものと少し違っていた。「死にそうな病人」は蟹を食べて食中毒になった若者で、「紫色」とは顔色ではなく、華佗が作った薬の色を指している。ここで早とちりしてしまったのは、紫色の薬だからといって「赤紫蘇」を使ったとは限らないのである。ウィキペディアの文章からは「紫蘇」だけを使ったのか、他の薬草と混ぜ合わせたのかは不明だからである。

「緑」→「紫」か「紫」→「緑」か
漢名で「シソ」は「蘇」と表記するという話もあり、「ソ」では呼びにくいので「シソ」となったという話もある。では「シ」とは何のことなのか。「シソ」の花は薄紫(葉が紫でも緑でも)で茎は濃い紫だが、このぐらいは他の草にいくらでも見られる特徴だ。そうなると「シ=紫=花、茎」とするのには動機が弱い。だが「シ=紫=葉」とすれば納得出来る。植物には珍しい葉の色をしており(「ムラサキゴテン」2015.10.12投稿参照)、それが印象に残らない筈がない。我々は緑(青)色の葉を持つ植物が最初にあって、品種改良で紫色の葉を誕生させたとして普通は考える。だが「青紫蘇」という名前を見れば、「紫」が先にあって「青」が後であることは一目瞭然だ。これは日本人がたまたま「紫の葉を持つ蘇」を「青の葉を持つ蘇」より先に見かけた(中国から紫色が先に渡来した場合)ということではない。漢名(中国)でも「紫蘇」と言うのである。では「青紫蘇」は「紫蘇」から生まれたものかといえば、そうでもないからややこしい。
訂正&加筆(2016.4.10):「赤紫蘇」は「青紫蘇」を品種改良したものだという。つまり「青紫蘇」→「赤紫蘇」の順になるが、いつの頃から「赤紫蘇」が存在していたのかがわからない。前述した華佗の時代にすでに在った可能性もあるのだ。「紫蘇」という名前が誤解を招く原因だ。「紫」が入っているので、それが植物の特徴だと勘違いしてしまう。
「シソ科」と古代の日本人
最初に「シソ科の仲間は多い」と書いたが、同じ「シソ属」に「エゴマ」という「シソ」によく似た草がある。「エゴマ」は「荏胡麻」と書き、縄文時代の遺跡からも発見されており、東南アジア原産であるが、古くから日本に来ていたと考えられている。
縄文人は「エゴマ」の種をクッキーのようなものに入れて食べていたという。
(注:気になって調べたがクッキーにエゴマを入れていたという情報は見つかりませんでした。記憶違いだったようです。お詫びいたします。ただ、クッキーは実際にありましたし、エゴマを利用していたのも事実です。2015.10.17追記)
遺跡に残っていたのは、このクッキーである。また「エゴマ」は油が採れるので、インドから「胡麻(ゴマ/アフリカ原産という)」が入ってくる前は盛んに利用された。最近では「エゴマ」の油は健康食品として再認識されているようである。

余談を2つ。品川区荏原は「エゴマ(荏胡麻)」が沢山生えていたから、その名が付いた。また「エゴマ」という名は「ゴマ」が入って来た後に付いた名前である。「ゴマ」が存在していないのに「エゴマ」と名付けるはずがないからである。

「シソ」と「エゴマ」の近すぎる関係
実は「青紫蘇」というおかしな名前の由来は「エゴマ」に関係がある。最初の方に「シソ」は「蘇」と表記すると書いたが、ここが重要である。いわゆる「シソ(紫も青も含めて)」は両方の色が元々存在していたが、紫色の方を「紫蘇」と呼び、緑色の方は「エゴマ」も含めて「白蘇」と呼んで区別していたのである。後年になって「エゴマ」と「緑色のシソ」は別物であると分かったので、しょうがなく(?)「青紫蘇」という名前を付けたのだ。昔は「エゴマ」の方が重要な草(油が採れる)であったので、「シソ」への関心は薄かったのだろう。油の採れない「エゴマ」、つまり「青紫蘇」を発見して「何じゃこりゃ」と思ったのではないでしょうか。

まあ間違えるのも致し方無い面もある。「紫蘇」も「青紫蘇」も「荏胡麻」も交配が可能で、たまに変な種が生まれるという。そのような新種は繁殖の面で問題があるだろうから子孫を作って増えることはないだろうが、東南アジアには「紫蘇」か「荏胡麻」か判断つきかねる草がよく生えているという。
訂正&加筆(2016.4.10):かつては「紫蘇」と「荏胡麻」は同じ科に属する違う種であると考えられていたが、DNAの分析から両者とも同じ一つの種から生まれた変種だということが最近判明した。上記の「交配が可能」というのもうなずける。違う種なら交配は不可能である。そんなことが可能なら、次々と交配が進んでしまうので、 物とはまったく別の姿になるだろう。
上:微妙な色の紫蘇 下:児童公園に生えていた紫蘇。冒頭の写真と比べると弱々しく、葉のギザギザもハッキリとしない。スーパーなどで売っている紫蘇とはずいぶんと違う。「F1種」から生まれた第2世代であろう。

追記(2016.2.17):「オランダハッカ(2015.8.18記事)」にも記載しましたが、紫蘇やハッカの香りは葉の裏に付いているオイルから出ています。洗いすぎたり、こすったりするとオイルが取れてしまうので、ご注意を。

写真:zassouneko 撮影:2014〜15年の10月上旬
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