在来種 1年草 20〜40cm 花期4〜6月 漢名:鼠麴草(ソキクソウ) 別名:ホウコグサ、オギョウ(御形)
春の七草の一つであるので資料はたくさんある。ありすぎて困るぐらいだ。HP「草木名の話/和泉晃一」によれば、「母子草」となったのは、9世紀の嵯峨大后(母)と仁明天皇(子)の相次いだ死にまつわるエピソードからである。役所の記録として残されたことにより世に広まった名前である。
「母子草」と同時期に「ホウコモチ」という「ハハコグサ」を混ぜ込んだ餅を食べる習慣があった。健康祈願として中国から伝わった風習であるが「ハハコグサ」には実際に薬効がある。漢方では「鼠麹草(そきくそう)」と呼び、痰や咳などの喉の病に効果があるという。やがて室町時代には「ホウコ」に代わって「ヨモギ」を使うようになり「ヨモギ餅」として今に至っている。
「ホウコ」は「ホウケル」であるが「惚ける、耄ける、呆ける」の意味ではなく、「蓬(ほう)ける」と書く。「蓬」は「ヨモギ」である。へー初めて知った。「草や髪の毛などが、ほつれ乱れる。けば立って乱れる(goo辞書より)」の意味があり「ほうけ立つ」などともいう。これは「ハハコグサ」の全体が細かな綿毛に覆われている様を表している。今でも「ハハコグサ」のことを「ホウコ」や「ホーコ」と呼ぶ地方もあるという。
中世に「天児(あまがつ)」という風習があった。子供の病気や災いを簡単な作りの「人形(ひとがた)」に身代わりになってもらうことで、難を逃れることができるという信仰である。「天児」には「ホウコモチ」を供えたという。3年経って災厄を背負った人形は川に流された。これは流し雛の起源ともいわれている。江戸時代になると「天児」は「這子(はうこ)」と名前を変え、より赤ん坊の姿に近づいていく。「這子」は今なら飛騨高山の「さるぼぼ」のようなものと考えてもいいだろう。呪術的なものではなく、子供のための行事だと考えればいい。
「御形」は「おぎょう」と読む。おそらく「人形」を身代わりとする風習と関わりがあるからだろう。「ごぎょう」と読むのは間違いだという。理由は書いていないけど。また「みかた」と読むと「神体や仏像。おんすがた」の意味になる。
この花を見かけるたびに、どこに「母」と「子」がいるのかと思っていたが、こんな謂れがあったとは。「ハハコグサ」によく似ている植物に「チチコグサ」があるが、その姿からは「父」と「子」を連想させるものは何ら見当たらない。ただの対比である。ちょっと適当すぎないか。
写真:zassouneko