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雑草探偵団

おっさんの雑草観察記です。花がどうとか生態がどうしたとかの科学的な興味はあまりありません。興味があるのは歴史や名前です。人との関わりや何でその名前になったのかに興味があります。その辺りを想像や仮定を交えながら書いています。個人の勝手な妄想のようなものですから、あまり信用してはいけません。また、このサイトはライブドアブログとミラーサイトになっています。何かあった時のバックアップです。

スミレの花咲く頃

スミレ(菫)/スミレ科/スミレ属
在来種 多年草 7〜15cm 花期4〜5月 別名マンジュリカ

「スミレ」の語源は牧野富太郎博士によると「墨入れ」であるという。「墨入れ」は「墨つぼ」とも呼び、大工が木材に長い直線の印をつけるときに使う道具である。西洋にも「チョークライン」という同じような用途のものがある。その道具がスミレの花の形に見えるからだということだ。とりあえず「墨つぼ」の形と比べてみようと、いくつかの写真を見た。だが考えてみれば昔と同じ形をしているとは限らないのである。どうしたものやら。
「スミレ」は万葉集などにも「須美礼」という名で載っている日本古来の草である。そんな時代に「墨入れ」があったかどうかが、まず疑問だ。ところが「墨入れ」は中東あたりに紀元前から存在しており、その後に中国に渡っている。また法隆寺からも「墨つぼ」を使ってラインを引いた痕跡が見つかっているようだ。法隆寺の建立は万葉集より前である。これはラインの入った木材の年代測定をしたので間違いはないようである。それでも「スミレ=墨入れ」説は今のところ仮説の一つでしかない。

「スミレ」という名称に問題がある。例えば「サクラ」と言えば、それは全ての種を含んだ大きなくくりのことを指している。「スズメ」を「鳥」と表現することが間違いではないように、「ソメイヨシノ」も「サクラ」と呼んでも差し支えはない。ところが「スミレ」はそうではない。「スミレ」は1つの花の名であると共に、スミレ科のすべての花のことでもあるのだ。混乱を避けるために、花に詳しい人は「スミレ」ではなく「マンジュリカ」と学名からとった名前で呼ぶそうだ。

スミレ科に関連する言葉としてパンジー、ビオラ、ヴァイオレットなどがある。パンジーはスミレ科の園芸種で花の直径が5cm以上のもので、それ以下はビオラという。そしてヴァイオレットはヨーロッパの「ニオイスミレ」のことをいう。バイオレットはナポレオンの妻ジョセフィーヌが好んだ花という逸話があり、良い香りがする。ところが日本で栽培すると匂いが薄くなってしまうそうだ。宝塚歌劇団の「スミレのはーなー、咲くころ〜♩」の「スミレ」は「ニオイスミレ」のことをいう。昭和初期には成功を収めていた宝塚歌劇団は演出家を積極的に海外へ視察に送り出していた。その時にヨーロッパから持ち帰った歌だそうである。また楽器の「ヴィオラ」「ヴァイオリン」は「スミレ」の花びらの形からきている。 道具や楽器の名前に使用されるほど人目を引いたのだろう。

花をつける期間は1ヶ月ほどであるが、終わった後に蕾のような閉鎖花をつける。閉鎖花は花が開かないので他の個体との受粉は出来ないが、かわりに自家受粉を行う。最初に開いた花と、その後に閉じた花でそれぞれ種子を作る。またスミレの種にはエライオソームと呼ばれるものが付着している。これは甘い物質で、蟻などがエサにしようと集まってくる。そして巣まで運ばれた種は、エライオソームを食べ終わった後にその辺に捨てられて次の年に芽をだすこととなる。なかなかの戦略家である。


写真を追加しました。(2015.12.12)
イラスト&写真:zassouneko
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