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雑草探偵団

おっさんの雑草観察記です。花がどうとか生態がどうしたとかの科学的な興味はあまりありません。興味があるのは歴史や名前です。人との関わりや何でその名前になったのかに興味があります。その辺りを想像や仮定を交えながら書いています。個人の勝手な妄想のようなものですから、あまり信用してはいけません。また、このサイトはライブドアブログとミラーサイトになっています。何かあった時のバックアップです。

ノゲシとあんパン

ノゲシ(野芥子)/キク科/ノゲシ属
在来種。葉は互生で0.5〜1m。花期4〜10月。別名ハルノノゲシ

ヨーロッパ原産。ユーラシア大陸の温帯にも分布。日本にも昔から自生している史前帰化植物。深江輔仁『本草和名』(918)に「苦菜(一名荼草/漢名)」に「和名尓加奈、一名都波比良久々佐」とあります。
「苦菜(にがな)」は実際に食べると苦いからですが、食べられないわけではなく食用や薬草として利用できるということです。本当に食用に適さないのであれば、注意を促したり、馬鹿にしたような名前が付きます。また「苦菜」と呼ぶ植物は他にもあります。大体において野生の植物は野菜ではないのですから、人に美味しさを提供する義理などありませんからね。同じ「ノゲシ」の仲間に「オニノゲシ」がおり「オニ」と付いているだけあって「ノゲシ」に比べて全体に荒々しい格好をしています。「ノゲシ」のトゲは触っても痛くはありませんが、「オニノゲシ」のトゲは大きくて触ると痛みを感じます。両者とも葉の根元に茎がめり込んでいるような外観をしています。

「ノゲシ」は「野芥子」の漢字をあてますが正確ではありません。正確でない理由を少し長くなりますが説明します。まずは登場人物の紹介からです。
①「ノゲシ」キク科、在来種。「和名尓加奈(にかな)」
②「カラシナ」アブラナ科、在来種。深江輔仁『本草和名』(918)に、「芥(漢名)」は「和名加良之(からし)」とある。種子は「和辛子(わがらし)」の原料になる。
③「ケシ」ケシ科。漢名罌粟(オウゾク)。阿片が採れる。平安〜室町時代に渡来。漢名の文字が環境によって化けるおそれがあるので説明しますと、貝+貝と書いて下に缶という字です。「口が狭まっており胴が 膨らんでいる壷」の意味でケシの実の形をあらわしています。
これら「ノゲシ」「カラシナ」「ケシ」が名前に関する奇妙な物語の役者たちです。

この3つの内、昔からの正しい名前を名乗っているのは②だけです。今の名前が付けられた順番は②→③→①で、②在来種→③外来種→①在来種となります。こうなった発端は②「カラシナ」の種から始まります。とても小さなものを「芥子粒(けしつぶ)ぐらいの大きさ」と言ったりしますが、これは「カラシナ」の種がとても小さいことを言ったものです。仏教の古い書物に載っている言葉です。アヘンが採れる「ケシ」のことではありません。「芥子(カラシ)」は「芥」+「子」で、「芥」は植物本体、「子」は種のことです。つまり香辛料の「カラシ」は「芥」という草の「子(種子)」から作られるのです。そのうちに③の種も同じように小さいことから③の種を「芥子(ケシ)」と呼ぶようになりました。「芥」は「ケ」とも読みますから。②の種を「芥子(カラシ)」、③の種は「芥子(ケシ)」です。つまり2つの種(タネ)の呼び方をちゃんと区別していたわけです。区別しないと種を蒔くときに困りますからね。

そのうちに種子の名前が植物本体を指すようになり、それぞれ「カラシナ(芥子菜)」「ケシ(芥子)」と呼ばれるようになりました。①が「野芥子」となったのは、③の「ケシ」の葉と①の葉が似ているからという簡単な理由です。つまり先輩の名前(尓加奈→野芥子) は、後輩の名前からとって新たにつけられたということです。まあ①を「尓加奈(にかな=苦菜 )」のまま放置する わけにはいけませんからね。なにしろ「苦菜」は名前ではなく「食べると苦い植物」というカテゴリーを表していますので、葉っぱを食べて苦かったら「苦菜」と呼ばれることになります。

あんパンの上にのっているのは、もともとは「ケシ」の種です。もちろん阿片が採れる③の「ケシ」のことです。ただし外皮を取って加熱してありますから害はなく、蒔いても芽は出てきません。最近は「ケシ」の代わりに「ゴマ」を使うこともあるそうです。「ケシ」をあんパンの上にのせるのは中身を区別(こしあん、つぶあん、白あん等)するためだと聞いたことがありますが、どうなんでしょうかね。目印にしては数が多い気がしますが。「芥子粒」の語源となった①「カラシナ」の種は使用しないようです。食べると辛いからでしょうね。「アンパン」に「カラシ」は合いませんよね。合うのは牛乳でしょうね。
これも「ノゲシ」だと思うのですが、なぜだか色が薄い。アルビノかな、それとも違う種類かな。

葉の様子。上が「ノゲシ」、下が「オニノゲシ」です。「ノゲシ」は触っても痛くありませんが、「オニノゲシ」は痛いです。
追記&訂正:(2015.12.13)(2016.1.14)/文章を追記し、写真を追加しました。
イラスト&写真:zassouneko
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