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雑草探偵団

おっさんの雑草観察記です。花がどうとか生態がどうしたとかの科学的な興味はあまりありません。興味があるのは歴史や名前です。人との関わりや何でその名前になったのかに興味があります。その辺りを想像や仮定を交えながら書いています。個人の勝手な妄想のようなものですから、あまり信用してはいけません。また、このサイトはライブドアブログとミラーサイトになっています。何かあった時のバックアップです。

コハコベ/その1/どうやら春はすでにやって来ているようだ

コハコベ(小蘩蔞)/ナデシコ科/ハコベ属
外来種の越年草 花期は2〜月

追加と訂正:「ハコベ」は「コハコベ」のことを指していると言ってもいいでしょう。これは「サクラ」=「ソメイヨシノ」という使い方と同じ意味です。疑問は残りますけど、詳しくは「ハコベ/2」「ハコベの見分け方」(いずれも2016.2.28記事)をご覧ください(2016.3.10)。

「コハコベ」の「コ(小)」という形容詞のない「ハコベ」は古くから日本にあった。深江輔仁「本草和名(918年)には、「鷄腸草及び蘩蔞(いずれも漢語=昔の中国語)は和名では波久倍良(ハクベラ)」、また源順(みなもとのしたごう、と読みます)の「倭名類聚抄(934年)」でも「蘩蔞」は「和名八久倍良(ハクベラ)」とあります。つまり当時の中国にあった「繁縷」と書く草は、日本にも存在する草と同じもので、それを日本では「ハクベラ」と呼んでいたので、漢語の「蘩蔞」を日本では「ハクベラ」と読むことにしようと決めたわけです。「蘩蔞」の字はどう頑張ってみても「ハクベラ」や「ハコベ」とは読めませんが、「秋桜」も気づいたら「コスモス」と読むことになっている現在ですから、読み方に文句を言ってもしょうがないでしょう。ただ、漢字(当時の中国の)本来の読みや意味が、現在の日本で通用するわけではありませんし、すでに日本語と中国語の漢字は、意味と表現が違うものがたくさんあります。公立の学校の入学試験に「秋桜」の読み方を問う問題は出されないでしょうけど。なぜなら、そんな駄洒落を正式な日本語と認める訳にはいきませんからね。

漢字のことは置いておくとして、読み方の「ハクベラ」とは何のことでしょうか。漢字で「波久倍良」と書いてあるのは、ただの表音記号ですから、今の漢字が持っている「波」「久しい」などの意味はありません。ただ「ha-ku-be-ra」と発音することを表現しているだけです。では、なぜ「ハクベラ」と呼ぶようになったか?それに関してはいくつかの説がありますが、どれも決定打に欠けているようです。ここからは私が植物名の由来に関して一番信頼しているサイト「草木名の話(興味がおありなら是非とも検索していただきたい)」からも引用して説明していきたいと思います。最初に「置いておく」とした漢字を取り上げます。「蘩蔞(ハコベ)」は「ハンル」と読みます。「蘩」は現在なら「繁」の字になり、植物が繁茂する様子を表しています。「蔞」は「糸」です。「繁る糸」とは何を意味しているのでしょうか。まずは下の写真をご覧ください。
「ハコベ(これはコハコベですが)」の茎を慎重に切って引っ張ると、中に繊維のようなものがあります。写真では切れた状態ですが、この糸は弾力があり、手を離すと分断された茎同士がくっ付いてしまい、糸の写真がうまく撮れないのです。漢字の「蘩蔞」は「糸を持っていて繁茂する草」という意味になりますから、表現としては正確です。ただ、これをもって「ハンル」が「ハクベラ」に変化したとする説は強引な気がします。
次に「ハクベラ」は「帛箆(ハクヘラ)」のことだという説があります。「帛」は絹布、白絹、書物の意味があり、これは茎の中にある糸を表すと同時に花の色にも言及していると思われます。「箆(ヘラ)」は「篦」とも書きますが、薄く削った細長い木片(最近は金属もありますが)の先端を鋭角にカットして、その部分で折り目をつけたり漆を塗ったりするのに使う道具のことです。竹でも作ります。平たいのは「竹べら」、細く尖っているのは「竹ぐし」ですね。「しゃもじ」も「ヘラ」に含まれます。この「ヘラ」は花の形を表していると思われます。ただ、糸のようなものは茎の内部にありますが、それを「布」と表現するのは強引です。また「ハコベ」の内部の糸(?)は絹糸ほど細くはありませんしね。まあ贅沢に何本も撚り合せた太い絹糸という意味なら、ありそうですが、絹糸は細く(丈夫だから)、それで織った布は薄くて軽く、色が上品な白であることが好まれますので、厚い絹織物に高い価値(金銭的でなく文化的な)があるでしょうか。冒頭の古典の紹介に「鶏腸」とあるのは、そのまんま「鳥の腸」の意味だと思いますから、「ハコベの中の糸」は小さな鳥の内部にある腸と言った方が合っている気がします。鳥の腸を実際に見たことはありませんけど。花の形は「しゃもじ」といってもいいでしょうけど、こうなると「帛箆説」も怪しいものです。

他にも「葉配り(ハクバリ)」が変化したなどという説がありますが、決定的なものは見当たらないような気がします。千年前の書物に「〜の理由で波久倍良(ハクベラ)と名付ける」と書いてあればいいのですけどね。日本語は昔から共通して使われてきたような感覚がありますが、それでも分からない言葉はあるのですね。別項に「ハコベの見分け方」をアップしました。「ナデシコ科の見分け方」は既にアップ(2015.5.24記事)しています。
上の写真は「コハコベ」の中心部。同心円状に広がる、いわゆる「ロゼット」の形をしています。なんだか面白いものがその中心部に見えます。短い茎に葉が密集してついています。あー、茎の始まりはこうなっているんだ。変わった野菜に見えなくもないな。

写真:zassouneko
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