ヒメイワダレソウ(姫岩垂草)/クマツヅラ科/イワダレソウ属
南アメリカ原産の帰化種 多年草 花期は7〜9月 草丈は20〜30㎝
渡来時期は不詳。植えられたのか自然に生えてきたのか(自生)は分からない。
大きな木を中心にして7〜8m四方の範囲に数百の花が咲いている。少し離れた排水溝の脇にも生えていた。自生しているような気がするぞ。花の感じが「ランタナに似ているな」とは思っていたが、案の定、同じ科の植物だった。
上の写真:「ランタナ」。別名は「七変化(シチヘンゲ)」。色が徐々に変化をするので人気がある。しかし「世界の侵略的外来種ワースト100」に選ばれている「お尋ね者」なのである。このリストはあらゆる生物(哺乳類、両生類、魚類、植物、菌類など)の中から選出した「ワースト100」であって、今、世間を騒がせている「ヒアリ(火蟻)」もリストに載っている。「ランタナ」には「ヒアリ」のような噛まれたりする被害が発生しないので世間の関心は薄いのである。でも「 ランタナ」の実(種子)を子供が食べると死ぬ恐れがあるって言われているんだけどなあ。
「ヒメイワダレソウ」に「姫」とついているのは「イワダレソウ」と比べて「小さい」か「可愛い」からである。名前の元となった「イワダレソウ」は「ヒメイワダレソウ」と同じ「クマツヅラ科イワダレソウ属」の在来種で海岸地帯の砂地などに生えているという。背も低く、茎は地面を這うように広がる。きっちり直立するタイプではないので、岩の近くで成長すれば、やがて岩から「垂れ下がる」だろう。植物の生態を観察して、つけられた名前である。「ピッタリ」の名前かどうかは疑問があるが。この「イワダレソウ」の
写真を見ると、やや「ゴツい」感じがするので「ヒメイワダレソウ」とは言い得て妙である。
それはそうとして「科」の名前の「クマツヅラ」とは何であろうか。漢字で「熊葛」としているサイトもある。このおかしな名前は跡見学園女子大学の「跡見群芳譜」によると「ウマウツツラ(馬打葛=ウマウツツズラ)の転訛」だということだ。「馬を打つ」のは「鞭(むち)」である。だから、この科を中国では「馬鞭草(バベンソウ)科」と呼ぶ。
上の写真:「ダキバアレチハナガサ」。毎年(と言っても3年目であるが)、ここの空き地で見られる。
なんで「馬の鞭」なのかというと「花穂が長く伸びること」が命名の由来らしい。「イワダレソウ」も「ランタナ」もその気配を感じないが、同じ「クマツヅラ(バベンソウ)科」の「ダキバアレチハナガサ」を見ると「鞭」の意味が分かる。この花は草丈が高く、背丈を越えることもある。また、茎の断面はほぼ四角で、とても硬く丈夫である。私などはアメリカの西部劇の影響なのか「鞭」と聞くと革製の長い紐状のものを思い浮かべるが、それではない。競馬で「ムチをいれる」際に使う「竹製」の「鞭」の方である。それに使えるほどの茎であるということだ。ちなみに「ランタナ」も「ヒメイワダレソウ」も茎の断面は四角である。
上の写真:「ダキバアレチハナガサ」。茎の断面が笑ってしまうほど四角(正確には4つの角が少し飛び出している形)で全体は硬い。これで叩かれたら痛いぞー。
さて、結局は「クマツヅラ」といっても「熊」ではなく「馬」の話だったわけだが、いつから「クマ」になってしまったのだろうか。10世紀の日本の書物に「(中国語の)馬鞭草は和名(日本名)久末都々良
(本草和名)」、「久末豆々良(倭名類聚抄)」
と記載があるという
。これは中国の書物に載っている「馬鞭草」は、日本では昔から「
久末都々良(久末豆々良)」と呼ばれている植物と同じものだと解説しているのだ。読みが「クミツヅラ」か「クミヅヅラ」か「クマツヅラ」かは分からないが、いずれも「ク」で始まっており、「ウマ」の要素は見えない。つまり千年以上前から「ウマ→ムマ→クマ」と訛っていたのである(おそらく)。千年の歴史がある「訛り」である。
※「ウマウツツヅラ」説で確定しているわけではありません。
写真:zassouneko