スイセン・ニホンズイセン(水仙)/ヒガンバナ科/スイセン属
帰化種 多年草 花期は12~4月 草丈は20〜40㎝ 学名:Narcissus tazetta var. chinensis
「スイセン(水仙)」は英語で「ナルシス(narcissus)」であるが、この「ナルシス」がギリシャ神話に出てくる美青年「ナルキッソス(Narkissos)」の逸話によるものであるのは有名な話である。水面に写る自分の姿に恋をして苦しんだ揚句、ついには死んでしまうというお話だ。「ナルシスト」の語源にもなっている。
この「ナルキッソス」君は美青年だけあってモテるのであるが、いかんせん性格に問題があったようで、女神やニンフ(下級の女神・精霊、女性の姿をしている)たちとのトラブルが絶えない。そのとばっちりを食らったのが「ナルキッソス」君の追っかけの一人であるニンフの「エコー」さんである。上位の神の怒りに触れてしまったせいで何かを話そうとしても言葉が出なくなり、相手の言ったことをオウム返しにすることしか出来なくなった。追い打ちをかけるように姿も奪われて最後には声だけにされてしまうのだ。とんだ災難であるが、こうして彼女は「こだま」として第二の人生を歩むことになったのだ。
さて、「ナルキッソス」君はボイオーティアの河神ケフィソスとニンフのレイリオペの間に産まれたというから、一応は神様である。その神様の名前を花の名(ナルシス)にしたのだ。この花が中国にシルクロード経由で渡ると、そこで「水仙」と名付けられた。「水辺の仙人」か「水の化身の仙人」かは分からないが、とにかく「仙人」が絡んでくる。あるサイトによると「仙人は、天にあるは天仙、地にあるは地仙、水にあるは水仙」と書いてあったが「水仙」とは初耳だ。諸星大二郎の作品でも見た記憶がない。それはそうと「仙人」とは道教の神仙思想からきており、修行を重ねて不老不死を得ることができた人間のことを指すのである。ヨーロッパでは「神」だったが中国では「仙人(元は人間)」なのである。
上の写真のように中央部がメガホンのようになっているものは「ラッパズイセン」の仲間です。冒頭の写真も含めて無料画像サイトよりダウンロードしました。海外のサイトですので、両者とも外国産の「スイセン」だと思われます。
この「ナルキッソス(Narkissos)」は「narke(麻痺する、昏睡する、無気力)」が語源になっているという。「スイセン」は毒草なので食べると嘔吐や下痢、痙攣や麻痺を引き起こす。正に名前通りの植物ですが、ちょっと出来過ぎた話のような気がする。古来より「スイセン」の毒性はよく知られていたので、それが神話の中にも織り込まれていったと考える方が自然である。なぜなら神話が生まれる前から花は存在していたし、人もそうだからである。 もちろん神話が先にあったと考える人もいることを否定はしないが。
シルクロードを移動する過程で、この花に関する物語がどのように伝播され改変されていったのかが興味あるところだ。「ナルキッソス」の神話無くして「水仙」が誕生したとは考えづらいからだ。「ナルシス」と「スイセン」には何か共通するものを感じる。だが、民族が違うと「神」や「精霊」に対する概念も異なるはずだ。この花に関して何を語り、どう理解したのであろうか。それを確認する術はもはや無い。中国(日本も)の「スイセン」には「narke(麻痺する、昏睡する、無気力)」の意味がないが、さすがにそれは致し方ないか。
文章:zassouneko