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雑草探偵団

おっさんの雑草観察記です。花がどうとか生態がどうしたとかの科学的な興味はあまりありません。興味があるのは歴史や名前です。人との関わりや何でその名前になったのかに興味があります。その辺りを想像や仮定を交えながら書いています。個人の勝手な妄想のようなものですから、あまり信用してはいけません。また、このサイトはライブドアブログとミラーサイトになっています。何かあった時のバックアップです。

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芥子(カラシ)が辛子になった訳:私考

おでんには欠かせない「カラシ」である。「いやシューマイだ」「トンカツに決まってるだろ」「肉まんを酢醤油とカラシでだな」。異論は認める。今や食卓に欠かせない不思議な魅力を持つ黄色の香辛料です(以下、香辛料のカラシを指す場合は後ろに「/香」と付けます)。

「カラシ/香」(←はい、ここでチューブから絞り出したカラシの画像を思い浮かべてください)は「芥子菜(カラシナ:昔は芥菜と書いた※1)」の種から作る。この「芥子」の「子」とは種のことである。「芥菜」の種からできるので「芥子(カラシ)/香 」(←はい、画像)である。植物本体は「芥菜」でもいいのであるが、「カラシ(芥子) /香」(←画像)が採れるので「芥子菜」に変化したのであろう。
※1「和漢三才図会(わかんさんさいずえ)/1712年/寺島良安」、「本草綱目啓蒙/1805年/小野蘭山」には「芥菜」で載っている。

「芥」を「からし」と読むのは、「カラシ/香」(←画像)が採れる植物を「加良之(からし)」と呼んでいたためだ。それが後年(10世紀頃)になって中国の事典に「芥」という名前のついた植物が載っており、それは日本の「加良之(からし)」と全く 同じものらしいと判明した。じゃあ日本もその字を使おうということで、 それ以降「芥」を「からし」と読むようになったのである。めでたしめでたし。とっぴんぱらり。どんとはらい。

次に本家である中国での「芥(カラシナ)」の説明を「百度百科」から。
芥(十字花科芸苔属植物)「也叫芥菜味辛烈,青绿色,似白菜,菜叶上有柔毛。」〜以下略〜。
勘で訳すと「芥」は「芥菜」とも呼び、味は辛い(注意:推測です)。以下略。
では、続けて「芥菜」の説明を。
「芥菜( Brassica juncea /学名)是十字花科(Cruciferae)芸苔属一年生或二年生草本植物,是中国著名的特产蔬菜原产中国,为全国各地栽培的常用熟菜,多分布于长江以南各省。」
学名が日本と同じなので、同じ植物である。それはそうと漢字は面白い。中国語なのに半分以上は理解できる。有名な特産野菜とか原産地中国とか。

さて、ここからが本題である。百度百科に「芥の味は辛い(味辛烈)」と書いてある(太字部分)。おそらくあなたは「からしのあじはからい」と読んだと思う。それで正しい。というかそれ以外に読みようがないのである。ただし「日本語では」という但し書きがつくが。ここに罠がある。


結論から書く。「芥(からし)」と呼ぶ植物が「辛い(からい)」ので「芥子」を「辛子」と書いてしまったのである。「辛い」という形容詞を同じ発音をする「芥」とごっちゃにしたのである。本来は「芥子菜」からできた香辛料は、固有の名前である「芥子(カラシ)/香」であるはずだ。ところが、その間違いを助長するような事態になった。「唐辛子(トウガラシ)」の登場である。この名前がちょっと問題ありなんだが。

ここで中国での香辛料の呼び名を見てみよう。「カラシ=芥末」「トウガラシ=辣椒」「コショウ=胡椒」「サンショウ=山椒」である。「カラシ」の「芥末」の「末」は「粉末」と同じような意味だろう。また「椒」とは香辛料(スパイス)を採る植物の意味がある。こうしてみると「カラシ」と他の香辛料とは明確に区別されている。それらを実際に使用する時の形状や状態で分けているようだ。簡単に言えば「ヌリュ、ネリネリ」と「パラパラ、サッサ」である。「椒」という共通項で香辛料を分類しているので統一感がある。さて、問題の「トウガラシ」であるが、日本に渡来したのは1592年頃で「タバコ」とともに持ち込まれたという。おそらくポルトガルとの貿易で輸入されたのだろう。そして「トウガラシ」は「南蛮胡椒」と呼ばれていたようだ。なぜなら「胡椒」はすでに知られていたので、同じように辛い「トウガラシ」に「南蛮」をつけたのだ。現在でも、キムチのように真っ赤でない白菜のピリ辛漬けを「南蛮漬け」と呼ぶ地域もある。

前述した「和漢三才図会」には「トウガラシ」は「番椒」という名で載っている。この「番」はおそらく「蕃」だろう。「異国の、外国の」という意味だ。いささか乱暴に言うと「蛮」も「蕃」も意味は同じである。この番椒」の横に「たうがらし」と書いてある。続けて読むと「俗に云う南蛮胡椒は今に云う唐芥子」とある。18世紀には「とうがらし」と呼ぶ方がすでに多数を占めていたことがうかがわれる。だが、あくまでも「唐子」であって「唐子」ではない。これが、いつ「辛子」になったのかは、今後気が向いたら調べたい。

あえて「唐子」にしたということも考えられる。黄色くネチャっとした「芥子」と赤くパラパラとした「唐芥子」では見た目にも違いがありすぎる。頭に「唐」をつけたとしても、差があり過ぎる。なので、「芥子」「唐辛子」と字を変えたのではないだろうか。なのに今では黄色いヤツも「辛子」と呼ばれることになってしまった。「辛子」「唐辛子」だとリズムはいいし、同じ「辛いものグループ」の一員のようである。だけど見た目が違うんだよなあ。

この「辛」という漢字は刺青を入れる「針」の形が語源だという。刺青を彫るのは痛くて「辛い(つらい)」のである。わざわざ痛くて辛い(つらい)ものを食べなくてもいいと思うのだが、人はそれを求めるのである。

話がそれるが「辛い(からい)」という言葉の表現の幅が広すぎる気がする。カラシもトウガラシもワサビも山椒も大根や生姜の絞り汁もすべて「辛い」で表現されるのである。ワサビとトウガラシの「辛さ」は質が違うように思うのだ。あえて言うとワサビはクールでトウガラシはホットだ。以前にワサビの辛みを「清冽な辛さ」と表現したのをどこかで見かけた記憶がある。いい表現だとは思うが文字が多いよなあ。「辛っ!」に代わる言葉がないものか。

追加&訂正(2016.11.21):文章を一部追加・訂正しました。

写真:zassouneko
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