サザンカ(山茶花)/ツバキ科ツバキ属
在来種 常緑樹 日本の固有種
「サザンカ」は、うんと昔は「サムサクハ(左牟佐久波)」と呼ばれていたそうだ。「サムサクハ」の意味は分からない。漢字表記もあるが、これは表音記号のようなものなので特に意味はない。「サムサクハ」が変化すると「サザンカ」になりそうだが、そうではないという。
サザンカの学名は「sasanqua camellia」、「Camellia sasanqua Thunb.」で「sasanqua」はどう見ても「サザンカ」で、「Camellia」は「カメリア」で要はツバキ科ということである。2つ目の最後にある「Thunb.」とはチェンベリーとかツンベルクと表記されるスウェーデン人の学者のことである。この人、鎖国中の日本に来て植物の研究をしていたらしい。ついでに「Camellia」も人名で、チェコスロバキアの宣教師からきている。つまり「サザンカ鈴木」とか「鈴木サザンカ田中」である。ハーフの演歌歌手か。
さて、ここからが面白い。サザンカは中国語で「梅茶」と書く。「梅」の意味は不明だが、なんで「茶」とつくかというと我々が飲んでいる「お茶の木」に葉っぱが似ているからだ。それもそのはず、「お茶の木」もツバキ科ツバキ属なのである。だが「梅茶」は「サザンカ」とは読めない。「バイチャ」だとアラレちゃんだ。
ここにツバキが登場する。学名は「common camellia」「Camellia japonica」で「common=一般の、共通の」「japonica=日本の」なので、なんだか日本のツバキ科を代表するような学名である。まあ、正確にいうと「ツバキ」ではなく「ヤブツバキ」なのであるが。で、このツバキ、中国語だと「山茶」という。中国人はどうしてもツバキ科の植物に「茶」をつけたいようだ。これは「山のお茶」の意味だと思うが、後ろに「花」をつければ「山茶花」になる。もうお判りだろうが「山茶→サンチャ、山茶花→サンチャカ→サザンカ」である。やったぜ。
「やれやれ解決した」と喜んでいる場合ではないのである。重大な疑問がある。なぜ日本の固有種(日本にしか自生していない)の「サザンカ」が、東アジアに自生している「ツバキ」の中国語読みから名前をもってくるのだろうか。おかしな話ではないか。
少し古典を検索してみた。「出雲国風土記」「古事記」「日本書紀」「万葉集」「源氏物語」に「ツバキ」はあるが「サザンカ(サムサクハ)」は出てこないようである。不思議だ。花の乏しい寒い冬の時期に赤い花を咲かせる「サザンカ」は珍しいと思うのだが。ひょっとして「ツバキ(ヤブツバキ)」の陰に隠れてしまったのかな。
私の住んでいる辺りでは「サザンカ」の方が「ツバキ」より多く見られる。「サザンカ」が好まれるのは花がたくさん咲くことと、背丈があまり高くならないからだと思われる。日本各地には5〜10メートルほどに成長した「ツバキ」の古木がある。街路樹ほどの高さになるのだ。「サザンカ」はそれほど大きくならないので生垣として利用できる。童謡「たき火」の歌詞に「かきねのかきねのまがりかど」と「さざんかさざんかさいたみち」とあるが、これは「サザンカ」の生垣が舞台だったのだ。これまで生きてきて今初めて気づいた。マンションの周辺にもよく植えられているが、もう「たき火」はできないのであった。
写真:zassouneko