イヌホオズキ(犬酸漿)の仲間/ナス科/ナス属
下にずらずらと英名やら学名が並んでいるが、ただコピペしただけである。これを覚えたところで何の得もない。では、何故そんなものを書き連ねるのかというと、この植物の名前の成り立ちを知りたかったからである。日本語の名前がとにかく腑に落ちないのだ。と、いうわけで進める。さて現在、日本に生息している「イヌホオズキ」に似ている植物は以下の4種である(筆者調べ)。
●「イヌホオズキ(在来種)」英名:black nightshade,blackberry,nightshade 学名: Solanum nigrum
●「アメリカイヌホオズキ(外来種)」英名:eastern black nightshade,West Indian nightshade 学名: Solanum ptycanthum Dunal ex DC.
●「テリミノイヌホオズキ(外来種)」英名:American black nightshade 学名: Solanum americanum Mill.Solanum nodiflorum Jacq
●「オオイヌホオズキ(外来種)」英名:divine nightshade 学名:Solanum nigrescens Mart. et Gal.
※太字は「黒」に関連している。
「イヌホオズキ」に「イヌ」と付いているのは役に立たない「ホオズキ」の意味になる。ところが皆さんご存知のあの「ホオズキ」とはまるで似ていない。「〜ホオズキ」とつけるからにはどこか共通するようなところがなければならない。けれども外見は、とてもじゃないが似ているとは言い難い。しかも「ホオズキ」は「ホオズキ属」なのに対し「イヌホオズキ」は「ナス属」なのだ。それなのになぜ「〜ホオズキ」とつけたのか。その辺がまるっきりの謎である。とりあえず日本語は横に置いておく。そして英語圏でどう呼ばれているかを調べてみた。ほほう、英語圏ではすべてに「nightshade」がつく。おお、何だかカッコいいぞ。ところが「nightshade」は検索しても「イヌホオズキ」としか出てこないのである。「
night=夜」はいいとして「shade」とは何だろうか。陰か日除けかブラインドか?「夜の陰」は一見詩的に聞こえるが、「夜の日除け」「夜のブラインド」は明らかに変だ。「イヌホオズキ」と「夜」の関係が理解できない。
さて、写真を見ればお分かりだろうが、これらの「イヌホオズキ」は黒い実をつける。そして英名には「black」が入り、学名に「nigrum」とつくものもある。この「nigrum」はラテン語である。そして「niger,nigra,nigrum」はいずれも「黒色の,黒い」という意味のラテン語であり、学名によく使われる。「niger」を黒人を差別する言葉と間違えてはいけない。そっちは「nigger」である。ナイジェリアやニジェールなどの国名が差別用語になってしまうではないか。
話が逸れた。つまり、この「黒」とは「実」のことだと考えていた。英名でも「blackberry」とも呼ぶ場合もある。ところが「イヌホオズキ」は葉も黒くなるのである。そうなるのは前から気付いてはいたが「病気にかかりやすい草なのだろう」と思い込んでいた。実際は程度の差こそあれ、そうなるのが正常らしい。考えてみれば病気でもないのに「葉が黒くなる」というのは際立った特徴といっていいだろう。そんな植物は他では聞いたこともない。
全体が黒くなった「イヌホオズキ」。おそらく「アメリカイヌホオズキ」。これに出会わなければ「nightshade」の発想は浮かばなかった。
次に「shade」と「shadow」の違いである。太陽を背にして立つと背面は明るいが腹部は暗くなる(反射光は無視)。その暗い部分を「shade」、そして地面にできる影が「shadow」である。要は「shade」は実体に付属しているが、「shadow」は実体から離れた虚像だといえる。つまり、
全身が黒くなった「イヌホオズキ」は、まるでそこだけが「夜の帳(とばり)が下りた」ように見えるのである。これは植物の影が黒いわけではなく(考えてみれば当たり前の話である。どんな影でも黒いのである)、植物自体が黒い(暗い)のである。「イヌホオズキ」などという正体不明の名前より、ずいぶんと洒落ている。おいおい西欧人にしちゃ、粋な名前をつけるじゃねえか。こいつは一本とられたぜ。ちょっと江戸っ子風味を入れて悔しがってみた。植物名を勝ち負けの問題にするのはおかしな話だが、今回は負けである。
英名の方がセンスがいいと思う。
ご注意:あくまでも個人の感想です。
写真:zassouneko